百々染だより Vol.91~Vol.99 | 思いを育み、役割を作るえんがわのプロジェクト

百々染だより Vol.91~Vol.99

執筆:

いぶきからのコメント

色や質感で選ぶのもいいけれど、染料のもととなった植物や、染められた季節、その日の天気や、作り手の表情からも選んでほしい。
同じものは存在しない百々染だからこそ、百々染をとりまくさまざまな「ことがら」や「人柄」から、あなただけの特別な一枚を見つけてください。

冬の季節にまろやかな色合いを Vol.91

立冬が過ぎ、少しずつ寒さが厳しくなってきました。

そんな初冬のある日、たくさんのイガグリが百々染工房に届きました。

栗と言えば、栗きんとんや栗ごはんといった、秋の味覚。
でも百々染工房で必要としているのは
ホクホク美味しい栗の実ではなく
外側の「イガ」の部分なのです。

今回
「栗のイガがたくさんあるから、採りに来て」と連絡をくれたのは
以前工房で一緒に染めの作業をしていた職員でした。

懐かしい人との久しぶりの再会に
つくり手たちもスタッフも思わず笑顔に。

一緒に楽しい時間を過ごし
箱いっぱいに拾ったイガを工房に持ち帰りました。

イガを煮出して作った染液は、濃い栗色になりました。

あまりにも濃い染液ができたので
ストールもこっくりとした栗色に染まるのかと思いきや
実際にストールを染めてみると、染液の濃さとは裏腹に
とても淡くて優しい、薄い栗色が入りました。

染めを重ねるごとに少しずつ色が入っていくストール。

何度も何度も染めて、色を重ねて
丁寧に一枚のストールを仕上げていきます。

幾度にも染めた、栗のストール。

まるで素朴な味わいの栗きんとんのような
まろやかで自然な色合いのストールに仕上がりました。

栗のイガで染めた、栗色のストールは
段々寒くなる季節に、秋の余韻を教えてくれるような存在に
なってくれるかもしれません。

寒さに負けないように着重ねていると
なんだかいつものモノトーンのコーディネートになってしまいがちな冬ですが
実りの秋を伝えてくれるこの栗色のストールをさっと巻いて
気分も明るく出かけてみてはいかがでしょうか。

(文/やじま)

縁起のよい木~ひさかき~ Vol.92

「ひさかき」という樹木、ご存知でしょうか?

年間を通じて艶のある葉をつける「ひさかき」は
サカキと同様に、縁起の良い木とされています。

神棚や仏壇へのお供え物、玉串
境内を囲む生け垣などに使用されています。

見たことのある人も多いと思います。

そんな「ひさかき」が、百々染工房に届きました。
工房では、実だけを使用して染めていきます。

木と実の選別作業をしているのは、松元さん。

松元さんは、繊細な作業が誰よりも得意です。

ひさかきの実は、10月~12月にかけて濃いむささき色に熟すため
熟して柔らかく、つぶれやすくなっている小さな実を優しくつまんで
丁寧に1粒1粒枝からちぎっています。

小さな実を染料にできる量まで選別するのは
とても根気のいる作業です。

松元さんは、毎日真剣な眼差しで
机に積まれたひさかきの枝に向かっていました。

ちぎった実に酢と塩を加え、漬け込むこと2週間。
とても色鮮やかな、むらさき色の染液ができあがりました。

できたての染液でストールを染めてくれるのは小森さん。
ストールと染液を入れた袋を揺らしながら染めていきます。

小森さんはいつもニコニコ。

歌ったり、仲間に「大好き大好き」と
話しかけたりしながら、楽しそうに染め上げました。

「色、入ってきたかな?」と聞くと
「バッチリ!!!」とこの笑顔。

見ている私たちスタッフも
思わず笑顔になります。

今回は、媒染液を2種類使って仕上げました。

塩水を使うと、ひさかきの実の色のような濃いむらさき色に。
アルミ媒染を使うと
青みがかった優しいむらさき色に。

2つの異なる趣のストールが染め上がりました。

縁起がよいと言われる「ひさかき」の実で
染めたストールを身につけて
新しい年を迎えてみてはいかがでしょうか?

(文/かしはら)

百々染が紡いだ物語 Vol.93

これまで私たちは百々染を通して、様々な人たちと出会い
様々な経験をしてきました。

今回はその中から、いくつかのエピソードを紹介したいと思います。

Episode01 色とりどりの百々染に心惹かれて

ある展示会でのこと。

終了の時刻が近づいた夕方
一人のご婦人が会場にいらっしゃいました。

そのご婦人は会場に入ると
「これ!これが見てみたかったの」と
百々染のストールを手にとりました。

そして、とても嬉しそうにこう続けました。

「今朝の新聞で展示会の記事を見たのだけれど
そこに写っていたずらっと並んだストールのグラデーションがとても綺麗で。
どうしても見てみたくなったの。
今日はお出掛けの予定だったから、帰りにここに寄ってもらったのだけど
間に合って本当によかった」と。

「いろんな模様が入ったものはいくらでもあるけれど
シンプルにこれだけ綺麗な優しい色の物はなかなかないから…」

少し迷われながらも、心惹かれる1本と出会えたご婦人。
会場をあとにする満足そうな笑顔に、その場に立ち会えた私たちもとても嬉しく
誇らしく思えたできごとでした。

Episode02 百々染が結ぶ「過去」と「今」

「こちらのストールは、この利用者さんが染められた物なんですよね?」
ある日、いぶき福祉会にこんな問い合わせが入りました。

話を詳しくお聞きすると
ある人の記念日に百々染のストールを贈りたいとのお話でした。

「私の知り合いがこの利用者さんがまだ小さな子どもだったころから知っていて
いぶきで頑張っている様子をとても嬉しく思っているみたいで。」

その方にストールをプレゼントしたいと思ったとのこと。

一緒に過ごしていた時間のことを
今でも大切に思っているその人に、
素敵に頑張っている今の様子を伝えることができると
贈り物に選んでもらえた百々染。

大切な方と過ごす大切な記念日
その重要な役割を担えたことを
とても誇りに思える瞬間でした。

Episode03 大切な思い出と百々染と

最後は、百々染に取り組むスタッフの話です。

地元を離れて20年ほど、今は遠く離れて暮らす祖母のことを思い
百々染のストールを贈ることにしました。

選んだ色は「みかん」です。

子どものころ、祖母に連れられて
何度も通った思い出のみかん畑。

祖母が大切に育ててきたみかんの木。

その枝と葉を使ってストールを染めることにしました。
元気な時には毎日通ったみかん畑。

その懐かしい思い出とつながることのできるストールを
おばあさまは想像以上に喜んでくれたそうです。

百々染では、様々な方から染料となる植物を
分けていただくことが多くあります。

それは、大切にしてきた思いを分けていただくことと同じ。

あらためて気を引き締めたできごとでした。

百々染を通した様々な出会いや経験は
私たち百々染工房のメンバーにとってとても幸福なことです。

1月25日から30日まで、「カフェ・ド・ギャラリー アダチ」にて
「しぜんのいろ、いろいろ展vol.6」を開催します。

そこでまた、素敵な出会いがあることを
今からとても楽しみにしています。

しぜんのいろ、いろいろ展 vol.6

 

開催日:1/25-30
開催時間:10:00-16:00
場所:カフェアダチ(501-3265 岐阜県関市小瀬1833)
イベント詳細:https://www.facebook.com/events/1278579332350657/?active_tab=about

(文/ながた)

百々染のシゴト~工房を支える丁寧なシゴト~ Vol.94

工房の中で、黙々と花びらをちぎっている姿が見えます。

百々染のシゴトの中でも
染料に使う植物をちぎる担当をしている松元さんです。

松元さんは丁寧かつ正確なシゴトで
百々染工房を支えてくれています。

百々染工房に来る以前は
張り子作りのための和紙ちぎりをしていた松元さん。

その経験から、染料を細かくしたり
混ざらないように仕分けたりすることが得意です。

さざんかの花を、花びらと雌しべ
雄しべを丁寧に分けてちぎっているので
濁りのない染液になり
ストールは綺麗なピンク色に染めあがります。

松元さんの丁寧さ、正確さが輝く場面は染料ちぎりだけではありません。

工房では、毎年、藍の葉を乾燥させて染料にしています。

松元さんは、収穫した藍を少しずつまとめて束にしてくれます。

シゴトの時間は静かな松元さんですが
この時には、「いーち、にーい、さーん…」と
数を間違えないように、声に出して確認します。

そうして松元さんの近くには
正確な本数でまとめられた藍の束の山が築き上げられていきました。

こうして、丁寧に、正確にシゴトをしてくれる松元さんは
工房のみんなから頼りにされています。

そんなみんなの期待に笑顔でこたえてくれる松元さんのシゴトには
染料への繊細な気持ちや優しさがあるように感じます。

百々染を通してみなさんにもその優しさが伝わればうれしいです。

(文/いけど)

冬の花「蝋梅」 Vol.95

12月から2月にかけて
蝋細工のような半透明の黄色い花を咲かせる
「蝋梅(ろうばい)」

とても甘い香りのする花です。

この「蝋梅」
「梅」という漢字が入っていますが
梅の仲間ではなく、バラ目バラ科に属しています。

寒い時期に開花し、香りが強く
花が枝にまとまってつくという梅との類似点から
「梅」の漢字が使われているそうです。

蝋梅の花言葉は
親が子をいつくしむような深い愛情を意味する「慈愛」

寒い冬、心にやさしく寄り添ってくれるような
かわいい花の佇まいや香りから
そんな花言葉になったのかもしれませんね。

手先が器用な木谷さんは
繊細な花がつぶれないように優しい手つきで
一つ一つ丁寧に枝から花をちぎりました。

スタッフを呼んで「いい香りがするよ」と
教えてくれた木谷さん。

あまくて優しい香りを
工房のみんなで楽しむことができました。

「かわいい花やねぇ」と何度つぶやきながら
優しい手つきでポンポンと触れていました。

蝋梅の花の染液でストールを染めるのは、岩本さん。

「みてみて~」と
何度もストールを持ち上げ見せてくれました。

真っ白なシルクのストールに
少しずつ黄色の色が入っていきます。

持ち上げたストールを見つめ
ウフフと笑顔になっていました。

蝋梅の花で染めたストールは
寒い冬を優しく見守ってくれるような暖かみのある黄色に染まりました。

これは蝋梅の枝です。
細い枝の染液は力強いオレンジ色になりました。

どんな色に染まるのか…。

蝋梅の枝の染液で染めるのは安藤さん。

ムラにならないようストールを両手で広げながら
じっくりゆっくり染めていきます。

納得のいく色に染まってくると「いい色が入ってきた!」と
力強い言葉で教えてくれました。

蝋梅の枝の染液で染めたストールは
力強いオレンジ色の染液とは思えない
優しくて心温まりそうな優しいベージュに染まりました。

蝋梅の花と枝で染めた2色のストールは
花言葉の「慈愛」のように寒い冬を
深い愛情で暖かく包み込んでくれるような
優しいストールに仕上がりました。

「慈愛」の気持ちを込めて…。

大切な人への贈り物にいかがでしょうか?

(文/なかしま)

「イチイ」からあふれ出る春の色合い Vol.96

みなさん、「イチイ」という木をご存知でしょうか。

九州南部及び沖縄を除く日本全国に分布する
イチイ科イチイ属の常緑針葉樹です。

まっすぐに伸びる幹と綺麗な円錐形を保つ姿が美しく
庭園の主木、生垣等によく使われています。
岐阜県の県木で、イチイを原材料とした飛騨の
「一位一刀彫」は国の伝統工芸品に指定されています。

そんな「イチイ」を
第二いぶきの近所に住む職員の家から譲り受け
さっそく染液にしました。

イチイを枝と葉っぱに分けて煮出してみると
ちがった色合いの染液ができあがりました。

光に当ててみると枝の染液は赤みがかった色。
葉っぱの染液は淡い黄色です。

同じ「イチイ」からできた異なる色合いの染液で
それぞれどんな色合いのストールになるのか
工房の仲間もワクワクしながら染め上げていました。

枝からはピンク、葉からは黄色。
異なる色合いながら
どちらも優しい穏やかな風合いに仕上がりました

ポカポカと気温も高くなり
すっかり春の陽気を感じる季節になりました。

そんな春らしさを感じさせてくれる
イチイのストール。

ぜひ一緒にこの春を過ごしてみてはいかがでしょうか。

(文/やじま)

世界中から愛されるバラの花 Vol.97

5月になると、バラの花があざやかに咲きはじめます。

世界中の人から愛されているバラの花。
色ごとに花言葉が違ったり、贈る本数によって
プレゼントに込める意味が変わったりと
バラの花にはたくさん思いがこめられています。

毎年、この季節になると
百々染工房に「染めに使ってください」とバラの花が届きます。

バラには様々な色や種類がありますが
工房では赤やピンクの花のみを使用します。

花びらを一枚ずつ丁寧にちぎったら
酢と塩を混ぜて1か月ほどゆっくり時間をかけて染液を作っていきます。

そうしてできあがった真っ赤な染液。
とてもあざやかで美しい染液になりました。

ここに、真っ白な生地を入れていきます。

ムラにならないように
端からゆっくりとストール生地を入れます。

さあここで、前川さんにバトンタッチ。

バラの花のあの美しさが滲み出たようなあざやかな染液の中で
優しい手つきでくるくるストールを回して染めていきます。

ストールに色が入ってくると
前川さんは染めていくのが楽しくて
自然と笑みがこぼれます。


染液のあざやかな色とは異なり
できあがったストールはやさしいピンク色。

これからの季節、白いTシャツにさらっと巻くだけで
涼しげで優美な雰囲気に。

シンプルなスタイリングでも
上品さを演出してくれそうなストールに仕上がりました。

ピンクのバラの花言葉は「上品」です。

バラの花1本贈ることにこめられた思いは
「あなたしかいない」です。

この世界に1本だけのバラのストールは
大切な「あなただけ」に贈る特別な1本にもぴったりです。

ぜひ、あなただけの思いをストールに込めてみませんか。

(文/かしはら)

明るく灯るストロベリーキャンドル Vol.98

4月。
だんだん暖かくなってくると
百々染工房の近くに鮮やかな真紅の花が咲き始めます。

この花は、ストロベリーキャンドル。

可愛らしい名前は
「イチゴのような赤い花をロウソクを灯すように咲かせる」
という姿からきています。

さらに、このストロベリーキャンドルには
「クリムソンクローバー」という別名があります。

クローバーという言葉から連想できるように
葉っぱは三つ葉の形をしています。

そんな花も葉っぱも可愛らしいストロベリーキャンドル。

今回、百々染工房ではこの花を使って染めていきます。

ストロベリーキャンドルの
赤くキャンドルを灯したように見える部分は
小さな花がたくさん集まって咲いています。

触ってみると柔らかくて
少しチクチクするような独特の感触です。

そんな花をプチっとちぎるときの
フワフワでくすぐったい手触りが心地良くて
工房の仲間は皆、花ばかりを細かくたくさんちぎっているようです。

赤色が気に入って
目の前を花でいっぱいにしようと集める人。

花よりも、かわいらしい三つ葉をたくさんちぎって並べようとする人。

ストロベリーキャンドルの持つ魅力を
皆それぞれに楽しみながら、ちぎっていきます。

そうして細かくした花や葉っぱ
茎を煮出して染液にすると
鮮やかな深紅の花からは想像できない
透き通った黄色の染液になりました。

澄んだ優しい黄色の染液で、少しずつ色を重ねていくと
目の覚めるような、とびっきり明るい黄色のストールに仕上がりました。

雨が降る日が続き、少しどんよりとする梅雨の時季
パッと気持ちを明るくしてくれるストールを身に着けて
ぜひお出かけしてみませんか。

(文/いけど)

紫の魅力 Vol.99

梅雨が近づくと咲く、紫色の花「紫つゆくさ」

よく晴れた暑い日には花が早くしぼみ
雨天や曇空の日には夕方頃まで咲く一日花です。

毎日次々と花を咲かせ、梅雨の薄暗いイメージに
そっと明るさを添えてくれているような花ですね。

紫色の花びらに落ちる雨。
しっとりとした美しさを魅せてくれます。

この紫つゆくさは
百々染工房のスタッフが自宅で育てています。

キレイな紫の染液ができるようにと想いを込め
自宅の庭でたくさんの紫つゆくさを大切に咲かせてくれています。

紫つゆくさがキレイに咲く5月の終わり頃
木谷さんと一緒に、紫つゆくさを摘みに行きました。

花がつぶれないよう、一つずつ丁寧に。
何日もかけて、たくさんの紫つゆくさを摘みました。

摘んだ花を酢に漬け、約1ヶ月。
じっくりと時間をかけ、紫色の染料を作っていきます。

ようやくできあがった染料を使って
シルクストールを染めてくれるのは
花びら染めが得意な前川さん。

ストールをゆっくりクルクルと回すように
ムラにならないよう、前川さんが考えた染め方で染めていきます。

約1週間。
時間をかけてじっくりゆっくりと染めたストールを持ち上げ
「いい色入ったよ」と笑顔で教えてくれました。

紫つゆくさの染液で染めたストールは
ちょっと大人で、落ち着いた印象をあたえてくれる
優しい紫色に染まりました。

季節を問わず使いやすい紫色。

ちょっと上品なコーディネートにしてくれそうな
おしゃれアイテムの一つにいかがでしょうか?

(文/なかしま)

この記事を書いた人

百々染だより Vol.91~Vol.99 | 思いを育み、役割を作る

いぶき福祉会

お問い合わせ

えんがわスケッチに、
あなたの未来の風景を描きませんか?

とりちゃん やま