2026.04.20
私はこうして福祉で変わった ──いぶきのグッド・ストーリー⑫加納優汰 編 <後半>
- 執筆:
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和田善行
大切にしていること:身を任せる勇気がよりよいチームをつくる
和田: 加納さんが日々の仕事の中で大切にしていることってありますか?
加納: “仲間が主語になる”のは当然として、その仲間を支える“職員を大事にしたい”ということです。私より仲間の変化に気づいてくれる職員が多く、本当に恵まれたチームなんです。だから「全部やらなきゃ」と思うと、逆に可能性にふたをしてしまう。サービス管理責任者(以降、サビ管)になったばかりの1年目は「全部覚えなきゃ」と肩に力が入り、険しい顔をしていた気がします。でも途中で「あ、この人たちには叶わないな」と思えたんです。
和田: 1年目と2年目では違いますよね。
加納: チームを取りまとめるサビ管が変わるのは現場にとって大きいので、できるだけ前と同じようにしようと思っていました。でも1年を通してやってみると、自分にも強みと弱みがあることがわかりました。みんなが力を貸してくれるので、力まずに、身を任せる勇気が出てきたんですよ。
和田: いいチームですね。
加納: そうですね。私はもともとブレーキ役で「危ないから気をつけよう」が先に出るタイプ。でもチームには「やってみようよ」と新しい提案をしてくれる人もいて、その存在のおかげで「まあ、やってみるか」と思えるようになりました。
和田: 違う意見に戸惑いもありましたよね。
加納: ありました。でも結局は“仲間がどう感じるか”に行き着くので、折り合いは早かったです。
いぶきでは「対話を文化にする」を大事にしていて、話さなければすれ違う。でも対話すれば「根っこは一緒なんや」と気づける。ブレーキ役として壁を作っていた部分も、対話の中で溶けました。今は人と人の間に“共通の答え”が生まれるようになったと感じています。
3.11がくれた転機。私が福祉に来た理由
和田: 前職は福祉とは違う業界だったんですよね。どんな仕事を?
加納: 旅行会社で、営業と企画したツアーへの同行をしていました。スーツを着て、時間もきっちり、いわゆる“カチカチ”の世界でした。
和田: そこから福祉へ転職しようと思った理由は?
加納: 人と接する仕事がしたいという気持ちはありましたが、大きかったのは3.11です。きれいな動機ではなく、「福祉は安定している」と思った部分もありました。旅行会社は3か月ほとんど仕事がなくなり、自分の作った旅行を全部取り消す日々、営業にも行けない状況でした。
和田: ああ、ちょうどその時期でしたか。
加納: はい。前職は嫌いではなかったけれど、「今が転機かな」と思いました。いぶき福祉会の求人を見て、ホームページを見て……大変失礼ですが「自分は抵抗なさそうだな」と感じたのが入口でした。
和田: 抵抗なさそう?
加納: 障害のある方への感じ方は人それぞれですが、自分は抵抗が少なかったんです。「いけそうだ」と。それが始まりでした。当時の私は、福祉=お世話する仕事、介護=“する側・される側”というイメージで、世論に近い考えしか持っていませんでした。
和田: そこから現場に入ってどうでした?
加納: 色々な価値観がひっくり返りました。例えば、私は運動部出身で営業職だったので、大きな声でハキハキするのが正しいと思っていました。現場でも「おはようございます!」と大きな声で挨拶していたら、仲間のKさんに「声が大きいです」と言われて、「あ、怒られた」と思いました。でも職員に「刺激が苦手な人もいる」と教えてもらい、これまでの常識は通用しないと気づきました。
和田: 価値観が全然違うんですね。
加納: さらに、「ありがとう」についても学びました。仲間が作業してくれたあと「ありがとうね」と言っていたら、先輩から「ありがとうじゃなく“お疲れ様”。それは仕事だから」と言われて……“自分はまだ上下の目線で見ていたんだ”と気づきました。
和田: 仕事をさせる/されるではないんですよね。
加納: はい。そんな気持ちでいると、最初は仲間も気を遣ってくれますが、すぐに壁ができます。そこからは周りの職員のやり方を真似し、「なぜそうするのか」を一つひとつ教えてもらって理解しました。本当に現場と理念に育ててもらいました。
和田: ここでの仕事は前職と全然違うでしょう?
加納: 前職では“お金”が軸で、満足してもらいながら利益を出すことが前提でした。でも今は“仲間の安心・達成感・笑顔”が中心。その違いが本当に大きいんです。安全なことであれば、何かに挑戦して失敗しても多少はよい。旅行業は一度の旅行を終えるとご縁が切れることが多かったけど、いぶきは一期一会じゃなく、ずっと同じ人と関われるので、それが嬉しいです。
和田: 僕たちは、関係をつくる仕事ですね。
加納: ただ、仕事の面白さが伝わりづらいのがもどかしい。水をジャブジャブ触る姿だけ見れば「なぜ?」と思うかもしれない。でも背景を理解すると「やりたいんだからいいね」と思えるようになります。最初の私は理由がわからず怖かったです。何気ない一言で怒られたり、別の場面で突然怒られたり……「今の私が悪かった?」と怯えることもありました。でも経験を積むうちに克服できました。
和田: たくさんの経験を積んでこられたんですね。
加納: 失敗は山ほどありますが、そのおかげで今があります。10年前の自分が今の自分を見たら驚くでしょうね(笑)。
和田: 異業種から飛び込んで長く続けてくださるのは本当に嬉しいです。
加納: ありがとうございます。福祉の仕事は「関係をつくる仕事」。まさにそれを実感しながら働いています。
ひとりで抱えない。対話が支えるサービス管理責任者としての毎日
和田: 今いい感じでやっているようですね。それでも悩みはありますか?
加納: ありますね。いぶき福祉会では、上下関係で指示・命令をするのではなく、目線を合わせて対話する文化をつくろうとしています。「脱リーダー」して、みんなを支えたいんです。でもサビ管として自分が伝えなきゃいけない場面もあって、その時「トップダウンになってないかな?」「顔色見て黙っとこって思われてないかな」と気になります。自分が周りの気持ちに蓋をしていないかが不安なんです。
和田: わかるなぁ。伝えるのって難しい。そこで工夫してることはありますか?
加納: 本当にメンバーに恵まれていて、「加納の顔が怖かったら言ってね」と伝えています。怒ってるんじゃなく悩んでいるだけなんですよって(笑)。仲間が帰ったあと一人で考え込むことも多いんですが、声をかけてくれる職員もいて助かっています。
和田: 仲間との関係では?
加納: たまに仲間に相談もします。散歩の車の中で「ちょっと聞いてや〜」って素直に話すんです。
和田: どんな相談を?
加納: ひとつ挙げてみると、並ぶのがしんどい仲間がいるんですが、順番をこちらが決めると、いつも最後になる人が出てしまう。それって嫌かな?と聞くと、一生懸命しゃべってくれる。「そりゃそう思っとるよ」と職員が代弁してくれたり。その場で仲間とともに次のアクションを決めることもあります。
和田: 仲間がいる中で相談するんですね。
加納: はい。職員だけの会話にせず、仲間も同じ空間で話せるのが自然だと思っています。普段は車内がワチャワチャなのに、私が相談すると急に静かになるんですよ(笑)。
和田: 本当に聞いてくれているんですね。
加納: あれは嬉しいですね。つまらない話だとすぐ賑やかになりますけど(笑)。職員と仲間が分かれず同じ空間で耳を傾けてくれるのが嬉しくて。言いづらいだけで、みんな意思表現してくれるんですよね。
和田: 境界のない関わり方がいいですね。

いぶき福祉会は、障害のある仲間も、スタッフも、分け隔てない風景をつくっていきたいと考えています
可能性にふたをしないチームを目指して
和田: これから「こうなったらいいな」ということはありますか?
加納: ありますね。少し自分の話をしてもいいですか。前職は旅行会社で、最初の配属が“にじ”。その後ほかの部屋も経験し、サビ管になってまた「にじ」に戻ってきました。
初めて「にじ」に入った時、外部と連携して商品を置いてもらえないか、という課題がありました。前職で営業をしていたこともあって、当時のサビ管さんが、部屋の看板を背負って外へ行く役割を新人の私に任せてくださったんです。
訪ねた先で「福祉の人って納期も守れない」と言われ、カチンときて、次の日もスーツを着て会いに行きました。「私たちも仲間と真剣に仕事をしている」と伝えたくて。
「また来たの?」と笑われつつも、それがご縁につながってにじの商品を置いていただけるようになり、そこから他の場所にも広がっていきました。「人ってこうやってつながっていくんだなぁ」と感じた出来事でした。
和田: 入社間もない加納さんがすばらしい動きをされましたね。
加納: 今振り返ると“任せる勇気”を学んだ瞬間でした。新人の私に任せてくださった経験は自分の中で大きかったです。去年の自分は、まだそこまで人に任せるということができなかった気がします。でもチームには、自分が持っていない力を持っている人がたくさんいて、それを出しづらい雰囲気になっているだけかもしれない。仲間だけでなく職員のよさももっと伸ばせるし、本人たちももっと発揮できる。そんな「のびのびできるチーム」にしたいと思っています。
和田: 「福祉の人ってルーズだよね」と言われたら普通へこむよね。でも加納さんは次の日スーツで行ったんですよね?
加納: いやいや、あれしかできなかったんです。でも、振る舞いや服装で相手の反応が変わるのだなと思いました。ルーズに見える部分を否定するつもりはありません、多様性ってそういうことだとも思っています。ですが、私たちは真剣に仕事をしているし、それを伝えることは大事だと思います。
だからこれからも、みんなの可能性に蓋をしないチームにしていきたい。のびのびできて、外からも認められる仕事をする。そんなチームをつくっていきたいです。
想像するよりずっと楽しいよ、と伝えたい
和田: 入社して12年目ですもんね。ひと回りって感じでしょうか? 実際どうですか?
加納: 考えさせられること、気づきをもらうことが本当に多い毎日で、「丸くなった」と言っていいのかわからないですが、変化したと思います。相手を尊重するという考え方を、仲間にも職員にも日々教えてもらっています。もちろん実践が追いつかないところもありますが。
和田: そんなことないですよ。すごくいいチームです。サビ管2年目ですよね。
加納: はい。1年目は力が入ってカチカチでした(笑)。2年目になってようやく少しずつですが周りの職員のことも気にできるようになって……でもやっぱり周りに育ててもらっていますね。
和田: 自分で変わっていける方なんですね。
加納: できないと思っていたんですけど(笑)。できるものなんですね、この環境のおかげなのかもしれません。
和田: これからいぶきに入ってくる人に「いぶきはこんなところだよ」と伝えるとしたら?
加納: 他業界から来た自分だから言えますが、「思っているより、ずっと楽しいよ」ということです。福祉って求められるレベルが低いと思われがちですが、そんなことは全然なくて、常に「より良く」を考える仕事です。ただ、その「より良く」が“より稼ぐ”ではなく、“より楽しく”“より面白く”に向かう。そこが好きなんです。
和田: 今日の話を聞いていても、それを実践されていますね。
加納: 最初はびっくりすることもあると思います。でも仲間の行動には理由があって、それぞれの表現なんだとわかれば大丈夫です。人と接するのが好きなら誰でも活躍できるはずです。12年で自分も大きく変われましたし、いろんな方に来てほしいです。強みや得意を活かせる職場ですし、新しい力が来ることでまた気づきも生まれます。職員も仲間も、本当にひとりひとり違いますから。
和田: 新しい人が入ることで、また風景が広がりますよね。
加納: そうだと思います。早く認めてもらえる職場ですし、フォローもある。安心して飛び込める場所です。
和田: 心強いですね。いぶきを、参加すれば仲間も職員も可能性が開くエンパワリングな場にしていきたいですね。これからも「より楽しく、よりよく暮らす場」をつくっていきましょう。

いぶき福祉会 加納優汰(左)、和田善行(右)
◆いぶきのグッド・ストーリー!
①竹腰龍太 編 前半:仲間を大事に、自ら考え、柔軟に支援できる現場をつくる
②竹腰龍太 編 後半:多様性が許容され、障害福祉の理解がもっと拡がる社会をつくる
③藤井美和 編 前半:障害の重い仲間の「暮らし」を支える楽しさと大切さ
④藤井美和 編 後半:助けてもらうだけではない、貢献感覚を持てる社会を
⑤小田由生 編:音楽という共通の話題を媒介に、障害のある仲間とよい関係がはじまった
⑥小田由生 編:できない理由より、実現にむけて行動するチームが、仲間や地域の可能性をひらく
⑦二村菜穂子 編:隣人同士が声をかけあい、ケアしあうからはじまること
⑧二村菜穂子 編:お互い様の心で、誰もが障害福祉に参加できる未来
⑨笠井公子 編:障害のある仲間と取り組む岐阜市のペットボトル・リサイクル
⑩笠井公子 編:地域の皆さんとの関係を結び、支えられてこそ今がある
⑪加納優汰 編:「できる」が生まれる場所
⑫加納優汰 編:私はこうして福祉で変わった (現在の記事)
【スタッフ募集中です!】———–★★★
ここに集う一人ひとりがかけがえのない存在。
障害のある仲間の活動と暮らしを支え、
いろいろな方と協働する地域にひらかれた場所です。
そんないぶきの未来を一緒につくるスタッフを
募集しています。
コラム:スタッフ・ダイアログ 「いぶきで働くということ」
採用情報:詳細はこちら(ibuki-komado.com)
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いぶきからのコメント
こんにちは、いぶき福祉会の和田です。いぶきの現場では、仲間と職員の関わりの中から、毎日のように小さな“グッド・ストーリー”が生まれています。その一つひとつを、もっと多くの方に知っていただきたい――そんな思いから、このコラム「えんがわスケッチ」を続けています。
毎回、現場で働くスタッフをゲストに迎え、いぶきの今をダイアログ形式でお届けしています。スタッフの情熱や、人と人がかかわる現場のリアル、そして“いぶきらしさ”が伝われば嬉しいです。
後半では、前半に続いて、異業種から福祉に飛び込み、この12年で大きく成長してきた加納優汰さんの歩みを伺います。