2026.11.03
しなやかである、ということ──判断を柔軟に切り替える【北川コラム Vol.9】
2024年7月の法人30周年を機に、コラムをはじめました。30周年を超え、40周年、50周年と続くいぶきでありたい。そのためにはどう未来をつくっていこうか。大切にしたい考え方とは何か。いろいろな角度から語っていきます。
第9回は、日々の「判断」について考えてみたいと思います。
- 執筆:
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北川雄史
ルールに縛られすぎずに決めていく柔軟性
いぶきの一日には、あらかじめ決めてあることがたくさんあります。今日は仲間たちとこの仕事をする、この時間にここへ出かける、といった予定です。
けれども現場では、その予定が、その日の様子を見ながら組み替わっていくことがよくあります。
「予定に入っているからやらなければいけない」「仕事だからそうしなければいけない」ではなく、仲間の顔を見ながら、天候や環境、その場の様子を見ながら、今日はこっちにしようか、今日はゆっくりいこうかと決めていく。僕はそういう動き方を「しなやかさ」と呼んでいます。
もちろん、決まりを守らなくていいという話ではありません。むしろ逆で、そのとき何をいちばん大切にするべきかを、その都度考えているということです。世の中には、「こうじゃなきゃいけない」が優先される場面がたくさんあります。ちゃんと全員そろわなければいけない。順番どおりに並ばなければいけない。決めたとおりに進めなければいけない。いつのまにか、そのこと自体が目的になってしまい、本来何のためだったのかが見えなくなることもあります。
だから、その都度「こうじゃなきゃいけない」をいったん手放してみる。しなやかさとは、その手放しと切り替えができることなのだと思います。
たとえば、いぶきを利用する仲間たちが成人式を迎えると、お祝いの会を開きます。なかにはみんなの前に出ることが難しい仲間や、人前で注目されるのが苦手な仲間もいます。ある時、みんなで記念撮影をするつもりが、成人した仲間がひな壇から降りてしまいました。するとみんながその仲間のもとへ移動し、そこで記念撮影をすることがありました。成人式だから前で写真を撮らなければいけないという通念を優先はしませんでした。その仲間がいる場所がステージになればいい。これも、しなやかな判断のひとつです。
判断できる人になる、ということ
こうした判断は、その場の思いつきで行っているわけではありません。
法人設立30周年を機に、僕たちは「ミッション・ビジョン・フィロソフィー」を整理しました。僕たちは何のために存在するのか。どんな社会を目指すのか。そのために日々どう振る舞うのか。そうした共通のよりどころを言葉にしたものです。だから、日々の行動を柔軟に決めていくときも、必ずそこに立ち返ります。判断の仕方が場面によって変わることと、判断基準がないことは違います。
いぶきは長年、「エンパワリング」という考え方を大切にしてきました。その人の可能性を広げていくという考え方です。それは仲間だけでなく、職員にも向けられるものです。
突き詰めていけば、僕たちが目指しているのは「判断できる人になること」なのかもしれません。目の前の状況に応じて考え、選び、行動する。その力を一人ひとりが身につけていくこと。それが、しなやかな組織につながっていくのだと思います。
見えることが、希望になる
知と文化の複合施設であるぎふメディアコスモスで、30周年のギャラリー展示を行ったときのことです。
障害のあるお子さんを持つお母様が展示をご覧になりながら、「うちの子は、これからどうなるんでしょうね」と不安そうに話してくださいました。僕は室内を見渡しながら「大丈夫ですよ。こういう社会があるのですから」とお伝えしました。
展示には、障害のある仲間たちが地域で暮らし、働き、人とつながりながら生きている姿が並んでいました。お母様は展示を見ながら少し安心されたようでした。目指す姿が見えることには、それだけで力があります。
こうすればできるよね。こういう形でもいいよね。まず誰かが小さな一歩を示すことで、そのあとに続く人たちがさらに新しい道をつくっていく。僕たちがやってきたのは、たぶんそういうことなのだと思います。
しなやかな場であり続けるために
特別なことではありません。目の前の人を見て、そのとき何を大切にするのかを考え続けてきただけです。しなやかさとは、決まりがないことではなく、大切なものを見失わないことなのかもしれません。
しゃしゃり出ず、思い上がらず、それでも誰かに希望が見える場所であること。いぶきは、そんなしなやかな場であり続けたいと思っています。

