2026.07.13
福祉の種をまき、次世代をつくる ─いぶきのグッド・ストーリー⑭ 藤澤亮太 編<後半>
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和田善行
ハッピー・ラジオが、仲間との大切な時間になった
和田: 前半では、自然体の対話を大切にする藤澤さん(以下、亮太さん)の仕事のスタイルや、病気での休職を経て得た気づきをお話ししました。後半では、仲間や地域との活動を中心に話をしてみたいと思っているんですが。今、携わっている活動の中で、仲間との関わりについて、印象に残っていることから聞かせてもらえますか?
藤澤: そうですね、最近だと、「ハッピー・ラジオ」ですね。仲間とラジオ番組を作ってみようという取り組みをはじめたんですよ。月1回、半年続けてきましたので、トータルで6回収録を行いました。これは外にはまだ公開していないものなんですが、収録の時には、仲間の表情がすごく豊かなんですよね。「楽しいな」って、見ていて感じるんです。自分にとっても大事な時間になっていますね。

和田: 僕も、2025年に「ぎふハッピーハッピープロジェクトウィーク」のイベントの時、仲間とのラジオをやりましたよ。仲間も一生懸命、ジェスチャーや声を出して反応していましたね。

和田: 「ハッピー・ラジオ」をやっていて、仲間の成長を感じることはありますか?
藤澤: もちろん、ありますよ。Sさんがそうですね。ここ最近で「自分から発信しよう」という気持ちがすごく出てきたなと思っています。いぶき福祉会には、仲間たちがつくる自治会があるんですが、Sさんは自治会長に立候補してその役割を担うようになってから、特に成長していることを感じています。以前は、自分が全部見ていたような部分も、今は彼女自身が率先して動いてくれますよ。自分で決めて、自分で動く姿が増えてきた。それはすごく嬉しいことですね。
和田: 「仲間の願いを大切にすること」「声なき声に耳をかたむけること」――いぶき福祉会のフィロソフィーにある項目ですが、ラジオの活動もそれらを体現しているんじゃないかな。言葉にならないうちから、その人が「こうなりたい」と思っているものを、ラジオを通じて引き出してきた結果なんじゃないかと思います。
藤澤: そうですね、この活動は続けていきたいですね。仲間の成長だけでなく、自分も学び合いをしている感覚が生まれて、いいプロジェクトだと思っています。
ハッピー・すまいる・フェスティバルが生まれた理由
和田: そういえば、北部で1年に1回実施している活動で、「ハッピー・すまいる・フェスティバル」もありますね。あれはどういう経緯で始まったんですか?
藤澤: コロナ前まで、長年大きな夏祭りをやっていたんですよ。地域の方も楽しみにしてくれていたし、第二いぶきの夏といえば、第二いぶきの夏祭りという感じで。コロナ禍の時にそれができなくなって、つながりが薄れてしまった。
それで、新たなグループホームであるパストラルD棟ができたタイミングで、せっかくなら、地域の方たちともっと一緒に何かできないかなって思って。隣に防災拠点もできましたし、しかも、僕らがやっているものづくりなども、もっと多くの人に知ってほしいという気持ちがありました。「仲間がワークショップのホストになって、地域の人と一緒にやってみよう」という考えが、「ハッピー・すまいる・フェスティバル」の始まりです。
和田: それまでの夏祭りとは違う形ですよね。
藤澤: そう。夏祭りって、どちらかというと地域の方に「見てもらう」「楽しんでもらう」形でした。ですが、「ハッピー・すまいる・フェスティバル」は「一緒にやる」スタイルです。仲間がホスト役になって、地域の人と肩を並べてものをつくる。そのほうが、ずっと近い関係が生まれると思ったんですね。
和田: 2025年が3年目の開催でしたね。いぶきのミッションに「協働する社会をつくります」というフレーズがありますが、「ハッピー・すまいる・フェスティバル」は、それを地域でかたちにしようとしている場なんですね。
藤澤: ケアする側・される側という二分法的な関係を超えて、ともにつくる文化が育まれているのがいいですよね。
駐車場からはじまった「サンフレンドみわ」さんと連携の輪
和田: それで、その活動の中から、「サンフレンドみわ・児童センター」さんとのプロジェクトも展開したんですよね?
藤澤: サンフレンドみわさんは、北部の近隣にある児童館さんです。もともと毎年、「ハッピー・すまいる・フェスティバル」のときに、サンフレンドみわさんの駐車場をお借りしていました。イベントの日に、一般の方の駐車場が必要で。毎年借りるだけでは申し訳ないし、せっかくなら一緒に何かできないかなと、前の所長さんに声をかけたんです。「うちのワークショップに来てもらえませんか、一緒にやりませんか」と。
和田: そこから広がったんですね。
藤澤: そうなんです。所長さんが変わられても引き継ぎをしてくださっていて、次の年に訪問したところ、「お話聞いています、ぜひ」って。いぶきにも見学に来ていただけて、そこで張り子の制作に興味を持ってくださって。「子どもたちに張り子の学習会をやってほしい」といっていただきました。その後、サンフレンドみわさんで行った打ち合わせにも、仲間と一緒に行きました。
和田: 子どもが集まる児童館ですものね。児童館の子どもたちと、いぶきの仲間たちがつながった。これは嬉しいですよね。
藤澤: そう、そういうつながりが、また別のつながりを生んでいきますしね。ハピすまの際には、サンフレンドみわさんがワークショップをやることをチラシに書いたら、それをみてサンフレンドみわさんの関係の方たちがハピすまにもお客さんを誘って来てくれたりもしました。
和田: いいですね!つながりが、また次のつながりを呼んでいますね。
藤澤: でもそれは、自分一人でやってきたわけじゃなくて。みんなで一緒につくってきたことなんです。そこはちゃんと伝えておきたいです(笑)。
和田: 「社会の幸せを考え、働きかけつづけること」も、いぶきが大事にしているフィロソフィーです。「ハッピー・すまいる・フェスティバル」の機会を活かして、地域との連携を広めていくわけですが、これは、社会へ連携の可能性をいつも働きかけてきた成果だと思います。しかも「自分一人でつくったものじゃない」という亮太さんの言葉に、いぶきらしさが出ているなと思います。
祖母から受け取ったもの。そして次の世代へ
和田: ところで、亮太さんが福祉の世界に入ったきっかけは、何だったんですか?
藤澤: うちの祖母が、障害のある方々の暮らす寮で働いてたんですよ。祖母は車の免許がなかったもので、母が送り迎えをしていたんですね。2日に1回は宿直勤務で泊まっていました。中学のころは、よく母の車に乗って私もその寮に行っていたんですよね。
和田: 中学生のころから?
藤澤: はい。そこは、昼間は外で働いている軽度な精神障害の方々が中心の寮でしたが、その人たちと話しているのが楽しかったんですよね。自然と「いいな」って思ったんです。自分は、もともと人が好きで。パソコンに向かう仕事より、人と関わりながら進めていく仕事がしたかった。それで、祖母がそういう仕事をしていたこともあって、福祉の大学に進んで、そのままずっとこの分野でやってきました。
和田: 中学のときの体験が、今もずっとつながっているんですね。それは、亮太さん自身が今度は誰かに種をまく側になってきた、ということにもなるんじゃないかな。
一つの出会いが、ひとりの高校生の未来をつくる
和田: たしか、地元の中学校や高校との関わりを、上手につくっていますよね?
藤澤: 三輪中学校さんは毎年10人以上ボランティアで来てくれています。先日も開催報告に行ってきました。それから、岐阜聖徳学園大学さんともつながりがありまして。自分が入職して1、2年目のころに、ちょっとした縁で先生と知り合って、それ以来、毎年イベントのときに生徒さんがボランティアで来てくれるようになったんです。

和田: その流れの中で、すごい話を聞きましたよ。
藤澤: ああ、高校生の話ですね。2年前の「ハッピー・すまいる・フェスティバル」に、高校1年生の生徒さんが来てくれたんですね。福祉に興味を持っていなかったらしいんですが、「なんかボランティアでも探してみようかな」って気持ちで参加したら、すごく興味を持ったそうなんです。将来の方向がぜんぜん決まっていなかった生徒さんが、「福祉の道に進もう」と思ってくれたと、先生から聞いています。
和田: それは、すごいことですね。
藤澤: うれしかったですよ。2年生のときにも来たかったけれど、修学旅行と重なってしまって来られなかったんだと。「進路は決めた」と聞いています。こういうことがあると、「ここでやってきた意味があった」と、心から思えますね。
和田: いぶきのミッションに「未来を物語り」という言葉があります。亮太さんが祖母から受け取った福祉への思いが、今度はその高校生の未来の物語をつくっている。一人の人の経験が、時間をこえてつながっていく。それを今、目の前で見ているように感じました。
「ありがたい職場」だからこそ、もっと知ってほしい
和田: 最後に、いぶきを知らない方々や、これから福祉の仕事を考えている皆さんに、何かメッセージをいただけますか?
藤澤: いぶきという場は、本当に温かいところだと思うんですよね。以前は別の法人で働いたこともあるんですが、仲間のことをここまできちんと考えているかどうかが、全然違います。いぶきは人を思う気持ちが強い職場で、それがすごく好きですね。こんなにいいことをしているのに、なんで採用募集で応募者が少ないのだろう、っていつも不思議に思うくらいです(笑)。
和田: 人との関わりが好きな人には向いていますよね、やっぱり。
藤澤: そうですね。難しいことをしなきゃいけない、って身構えなくていいと思っています。まずは人として、きちんと相手を尊重できること。それさえあれば、ここでやれると思います。関係をつくるのが好きな人、人と一緒にいるのが楽しい人、そういう人にはすごく馴染める職場だと思いますよ。
和田: このコラムを機に、いぶき福祉会や福祉の仕事へ興味を持ってくださる方が増えるといいですね。

◆いぶきのグッド・ストーリー!
①竹腰龍太 編 前半:仲間を大事に、自ら考え、柔軟に支援できる現場をつくる
②竹腰龍太 編 後半:多様性が許容され、障害福祉の理解がもっと拡がる社会をつくる
③藤井美和 編 前半:障害の重い仲間の「暮らし」を支える楽しさと大切さ
④藤井美和 編 後半:助けてもらうだけではない、貢献感覚を持てる社会を
⑤小田由生 編:音楽という共通の話題を媒介に、障害のある仲間とよい関係がはじまった
⑥小田由生 編:できない理由より、実現にむけて行動するチームが、仲間や地域の可能性をひらく
⑦二村菜穂子 編:隣人同士が声をかけあい、ケアしあうからはじまること
⑧二村菜穂子 編:お互い様の心で、誰もが障害福祉に参加できる未来
⑨笠井公子 編:障害のある仲間と取り組む岐阜市のペットボトル・リサイクル
⑩笠井公子 編:地域の皆さんとの関係を結び、支えられてこそ今がある
⑪加納優汰 編:「できる」が生まれる場所
⑫加納優汰 編:私はこうして福祉で変わった
⑬藤澤亮太 編:対話と関係づくりを、自然体で
⑭藤澤亮太 編:福祉の種をまき、次世代をつくる(現在の記事)
【スタッフ募集中です!】———–★★★
ここに集う一人ひとりがかけがえのない存在。
障害のある仲間の活動と暮らしを支え、
いろいろな方と協働する地域にひらかれた場所です。
そんないぶきの未来を一緒につくるスタッフを
募集しています。
コラム:スタッフ・ダイアログ 「いぶきで働くということ」
採用情報:詳細はこちら(ibuki-komado.com)
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いぶきからのコメント
こんにちは、いぶき福祉会の和田です。いぶきの現場では、仲間と職員の関わりの中から、毎日のように小さな“グッド・ストーリー”が生まれています。その一つひとつを、もっと多くの方に知っていただきたい――そんな思いから、この連載を続けています。
毎回、現場で働くスタッフをゲストに迎え、いぶきの今をダイアログ形式でお届けしています。スタッフの情熱や、人と人がかかわる現場のリアル、そして“いぶきらしさ”が伝われば嬉しいです。
今回のゲストは、北部と西部のグループホームを統括する藤澤亮太さんです。前半に続いて、後半をお届けします。