“関わりしろ”がつくる豊かさを | つながり、価値を創るえんがわピープルの物語

“関わりしろ”がつくる豊かさを

いぶきからのコメント

多様なアクターがいるから対話が生まれるんだということを教えてもらったことがあります。多様な「人」ではなく「アクター」としたのは、私たちは人間以外の「自然」や「機械」なんかとも対話を重ねていくものだからと。人間の数とは比較にならない天文学的な数がいる微生物からの学び、ご一緒させていただきたいなあと思います。時間の流れがおだやかになって、視野が広がります。

土壌~表土から18cmのお話

ウクライナでの悲しい戦争が引き起こした世界的な食糧危機。いまロシアからウクライナにかけての穀倉地帯チェルノーゼム(ロシア語で「黒い土」)が注目されています。
このチェルノーゼム、実は以前から風や水による表土の侵食で存続が危ぶまれていました。本の受け売りですが、表土というのは土壌の最表層部、地球の皮膚に相当する部分で、土のいのちはこの表土が生きているかどうかで決まります。そもそも地球を覆う土壌って平均するとわずか18cm。ちなみに1cmの生きた土ができるには良い環境で何百年もかかるのだそうです。

とエラそうに書いていますが、私が土に関心を持ったのはまだ最近のこと。土中環境改善、環境再生に長年取り組んできた庭師さんがゴザーレ・プロジェクトに加わることになり、その方からいろんなことを教わりました。
元来、自然界では雨が降れば地面から土中に水分が浸透し行き渡ること。その土の中には無数の土壌微生物が息づき、これらが生み出すチッソ、リン、カリウムなどの養分で力強く植物が育つこと。そこから多種多様な昆虫、動物などが生まれ育ち生物多様性を保っていること。土壌微生物は植物の落葉落枝、動物の排泄物や死骸などを栄養として摂取、分解して、さらに豊かな土をつくり出すこと。

こうした話を聞くと、自然の循環や生態系のバランスを考えないで、独りよがりな人工物の世界を押し広げてきた人間ってつくづく業が深いなと。私自身その人間の身勝手さを自覚しつつも、現代生活の圧倒的な快適さを前に、でも今さら仕方ないよね、というどこか後ろめたい開き直り態度がインストールされてしまっていると感じます。

 

“関わりしろ”はどこにある?

ところで私たち人間は、自分のためだけに生きていても幸せを感じられないといいます。だれかと関わりができて、その人を気にかけながら、その人の笑顔のために動いているとなぜか幸せな気持ちになります。
想像ですが、むかしの人はそんな幸せを感じる場面が今よりたくさんあったのかもしれません。私たち現代人は、生活はめちゃくちゃ便利になった反面、処理しきれないほど多くの情報を日々浴びながら、覚えきれないほど多くの他人と一年中顔を合わせて、くたくたになって生きています。そんなストレスいっぱいな社会で、これ以上余計な状況に巻き込まれたくない、面倒くさいことはもうイヤ、と身近なつながりをどんどん減らしてきてしまったのが昨今ではないでしょうか。皮肉なことに、快適で安楽な生活を追い求めることで、幸せを感じるこころの余裕がむしろ減ってしまったのではないかと思います。

ゴザーレ・プロジェクトでは「土づくり、杜づくりからはじめるまちづくり」を掲げています。土壌微生物は私たちのお手本です。無数の菌類や藻類、原生動物などが互いに拮抗したり共存したり、気がつくと相性の良い仲間たち同士で網のようなつながりをどんどん張り巡らせたり。彼らは驚くほどの多様性を保ちながら、自然界に循環を促して生態系全体を力強く豊かにしています。
よく話しているのですが、ゴザーレ式まちづくりの心構えは、巻き込まれること上等、面倒くさいこと大歓迎(笑)。その先にある人同士の多様なつながりは、お互いの視野を広げて、安心や幸せを生み、支え合いの気持ちやこころの豊かさをつくりだします。ですからまちづくり活動で何か新しいことを始める時には「“関わりしろ”はどこにあるのかな?」といつも探すようにしています。

 

この記事を書いた人

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吉田理

よしだ おさむ
岐阜市在住。フェニックス・グループ地域共生社会推進室長。岐阜県老人保健施設協会事務局長。岐阜県男女共同参画二十一世紀審議会委員。
高齢者施設を拠点に元気高齢者の力を借りて学童保育を行うなど、地域ぐるみの子育て支援で世代、性別、ハンディキャップの有無に関わらず参加できるまちづくりを実践。近年取り組むGOZARE(ゴザーレ)プロジェクトでは裏方担当。社会福祉士。プライベートでは1児の父。

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とりちゃん やま