2023.08.08
百々染だより Vol.41~Vol.50
- 執筆:
-
いぶき福祉会
枝のなかに隠れた淡い色 Vol.41
植物の枝で染めたストールはどんな色をイメージしますか?
かしの枝は黄色、シナモンの枝はオレンジ色、有名な桜の枝はピンク色。
また、かりんの枝も同じピンク色になるんですよ。
地域の方とのつながりで
たくさんのかりんの枝をいただきました。
汚れを取り除いて
なるべく細かくしていきます。
細かくした枝を
さらに細かく仕上げてくれるのが木谷さん。
両手で両端をもってポキッと折っていきます。
この細かさが
きれいな染液を作る大事なポイントです。
1回目にいい染液ができたり
2回目にいい染液ができたりと
毎年枝の状態によって色が変わってきます。
「今年はいい色がでるね~」
「去年に比べてピンク色がでたね~」
そんな会話を楽しみながら
その年にできた色を大切に使っていきます。
出来上がった染液を一晩寝かせてみると
「あれ、濃くなってる!」
そんな発見もありました。
今日はこのまま染めてみよう
今日は一晩寝かせてみよう
みんなで染液とにらめっこしながら相談です。
枝で染めると聞くと
なんだか花に比べて地味なイメージ。
ですが、枝から出る淡いピンクは
花では作り出せない深さがあります。
ピンクのストールは
ちょっと照れくさいなぁという方でも
とてもつけやすい色ですよ。
今年できた色は今年だけ。
ぜひ、この特別なストールを見にまとってみてください。
(文/かに)
待宵草 Vol.42
夏になるにつれ道端に黄色の花たちが彩りを与えてくれます。
その中に「待宵草」という草があります。
花が咲く前に百々染工房にはたくさんの待宵草が届きます。
通称、月見草と言われ
写真にある待宵草は高さは50~80㎝と様々。
葉っぱも大きいですが
直径5㎝ほどの小さな花を咲かせます。
(月見草は別の植物です)
この花の1番の特徴は
夕方から夜にかけて一気に開花して
朝になる頃には萎んでしまうこと。
なんとも儚い花ですが
月を眺めて咲く姿はとても幻想的です。
賑やかな雰囲気に包まれている工房の中で
黙々と葉っぱをちぎっている吉迫さんです。
この真剣な表情を見てください!
吉迫さんは花が咲いている植物が好きですが
待宵草のように大きく
葉がやわらかくとりやすい草花が大好きです。
大きな茎を見つけると
素早くつかんで一枚づつ丁寧にちぎっていく姿はまさに職人。
良い染液をつくるためには
このような細やかな作業が大切なんです。
1枚1枚ちぎった葉っぱを丁寧に煮出して染めたストールは
夏の訪れを知らせてくれる待宵草の花のような鮮やかな仕上がりになりました。
ぜひ手にとってみて
風情のあるひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。
(文/かわなみ)
つながり~木曽三川公園・アクアワールド水郷パークセンター~ Vol.43
写真のようなチューリップをたくさん見ると
なんだか幸せな気分になります。
そんな気持ちになるのは私だけでしょうか。
写っているチューリップたちは
岐阜県海津市にある
国営木曽三川公園アクアワールド水郷パークセンターの
チューリップアート開催時のチューリップたちです。
「草木染めをやってるんですよね?」
「チューリップアートが終了した後に
チューリップの花びらを廃棄してしまうのですが
よかったら花びら使いますか。」
とスタッフさんが私にそう声をかけてくれました。
声をかけられたのは
このアクアワールド水郷パークセンターのイベントに
いぶき福祉会として出店した時でした。
こういったお声掛け、本当に嬉しい話です。
チューリップアートは今年5月3日~5日までの3日間開催されました。
富山から5万本のチューリップの切り花が
水郷パークセンターに届き
このチューリップアートを開催しているようです。
そして今年
チューリップアート後に私たちが
その花びらをもらうことができ
チューリップの花びらで染めることができたのです。
富山からのチューリップストーリーですね。
チューリップアート開催前日
作り手たちとお手伝いに伺いました。
チューリップの花びらを贅沢に詰め込んでつくった作った染液。
染めあがったストールは
味のあるピンク色に仕上がりました。
今はまだ、一本しか染め上げていません。
その特別な一本、いかがですか。
(文/やまもと)
百々染のシゴト ~ちぎり手~ Vol.44
見てください、この真剣なまなざし。
くさぎの実は
一粒一粒丁寧にとらないと皮が破れてしまうのです。
集中して一つ一つ…。
木谷さんのこの丁寧な作業が百々染には欠かせません。
ひとつの枝にたくさんの実がついたなんてん。
実だけを集めて
塩と酢で寝かせることにより
なんてんの染液が出来上がるため
枝と実を分ける必要があります。
くさぎと同じように
小さな実を一粒ずつちぎる細かい作業になるので
集中力が欠かせません。
少しずつなんてんの枝を取って
休憩を挟みながら丁寧に仕分けをします。
そして、実だけでなく花びらをちぎるのも得意です。
写真はバラの花を一枚一枚ちぎっているところです。
バラの花びらは繊細で傷つき易いので
傷つかないように爪を立てずにちぎります。
ちぎった染料を煮出したり、塩と酢に漬け込んで
染料ごとに染液にしていきます。
実は、キレイな染液を作るのに
「染料が傷ついていないか」が大切なのです。
染料によって特徴が異なるので
それぞれに合わせてちぎり方を変えていかなければなりません。
ここで木谷さんの一芸がキラッと光ります。
ちぎり手の思いがこもったストールをぜひ手にとってみませんか。
(文/やじま)
あさがお ~ひと粒の種から大輪に向かって~(前編) Vol.45
夏の風物詩として多くの人の心に存在している、あさがお。
朝にパッと花を咲かせるその姿から
「朝の美人の顔」と表したことが由来とされています。
あさがおは奈良時代に中国から薬草として伝えられ
下剤としての成分が含まれており
長い間薬草として扱われてきました。
伝来当時のあさがおは
丸い小さな青い花を咲かせていたそうです。
いま私たちが目にする様々なあさがおは
長い年月をかけて作り出されたものなのです。
これまで私たちは
地域の方からいただいたり
庭に咲いたあさがおをスタッフが持ちよったりしながら
染液をつくっていました。
「今年は種から育ててみよう!」
という思いから
種まきから始まるあさがおストーリーの幕明けとなりました。
今回の主人公は前川さん。見てくださいこの眼差し。
少し切れ込みを入れて
ひと晩水につけた種を苗床に一粒ずつまいていき
やさしく土をかぶせているところです。
その真剣な表情のウラにはきれいに花が咲く期待と
芽が出てこないかもしれない不安が入り混じっています。
やがて苗床には小さくてかわいらしい芽が沢山生えそろい
少しづつ大きくなり、苗床が窮屈になってきました。
広いところでのびのび育つよう
「大きくなぁ~れ」と思いを込めてプランターに移植。
たっぷり太陽の光を浴びた葉っぱは
その思いが伝わったかのように日に日に大きくなっていきました。
毎日の水やり。
染めの仕事に入る前の日課です。
あさがおは水を好むので土が乾いたら
鉢底から染み出るくらい愛情を込めて水をたっぷりとあげます。
仕事中も成長する様子が気になるのか
チラチラ視線が外へ向いていました。
前川さんが笑顔で毎日世話をしているあさがおたちを
みんな気にかけてくれている様子。
通りかかる人がつるのはわせ方のアドバイスや
健康状態を教えてくれたり、いつの間にか輪が広がって
みんなが愛情を注いでくれるあさがおは順調に成長してます!
つるがどんどん伸びていきとても大きな葉っぱに育っていきました。
これからさらに暑い時期を迎え
たくさんの花が咲いていくでしょう。
日々成長していくあさがおたちが楽しみです。
次回は花を摘み
染液をつくってストールを染めていくところをお伝えしたいと思います。
どんなストールに仕上がるか楽しみにしてください!
(文/かわなみ)
眠りの木 Vol.46
河原など水のある場所でよく見かける「ねむの木」
日本、朝鮮半島、中国に分布する
高さ10m~15mほどの落葉性の樹木で
細長い葉っぱとフワフワした花が特徴です。
細長い楕円形の小葉が
軸をはさんで左右に15対~30対ほどあり
夜になると左右の小葉がぴったりと合わさって垂れ下がり
眠っているようにみえる事から眠りの木。
「ねむの木」と呼ばれるようになりました。
フワフワとした淡紅色の花は梅雨から夏にかけて咲きます。
この花、咲くまでに10年もの年月がかかるそうです。
美しい花に見えますが
長く伸びたおしべが10個~20個集まったもの。
ねむの木に花が咲くと夏がきたな~と感じます。
黄色がでる染料は多く、今の時期だけでも
よもぎ、月見草、ヒメンジオンなどたくさんありますが
ねむの木はその中でも濃さと鮮やかさが際立ちます。
同じねむの木でも煮出す時間や
加える水の量によって出来上がる染液が変わり
仕上がるストールの色が変わってきます。
「明日もう少し重ね染めしてみようか」
「思っていたよりもちょっと濃くなりすぎたかな」
毎回違ってくる色に驚き
みんなで盛り上がりながら染めています。
ひときわぱっと目を引く色のストール。
ぜひ、首元に巻いて夏を楽しんでみてはいかがでしょうか?
(文/かに)
ストールのお手入れ Vol.47
「ストールに付着した汗や汚れってどうやって洗うの?」
「どうやってお手入れすればいいの?」
と、ストールのお手入れについての声をよく聞きます。
8月に入って、汗ばむ季節。
ストールのお手入れが気になる方も多いのではないでしょうか?
方法は色々とありますが
今回は私たちがいつもしているお手入れ方法をご紹介します。
【用意するもの】
・中性洗剤(お洒落着洗い用洗剤)
・ストールが入るタライ
・あとは水があればOKです!!
タライに水をはりストールを浸します。
全体に水がしみわたったのを確認して
中性洗剤(お洒落着洗い用洗剤)をほんの少し入れます。
洗剤を入れたあとは、ストールをやさしく手洗いします。
(洗濯機で洗うとストールが傷ついてしまったり
色落ちしてしまったりするためオススメしません)
やさしく手洗いした後は、水で洗剤を洗い流します。
タライからストールを出したら、脱水を行います。
タオルにストールを広げ、タオルと一緒に折り畳み
上から押して水分をしっかり取ります。
次にストールを乾かします。
必ず陰干しでお願いします。
(草木染の商品は日光に弱いです)
干すときのポイントは
シワが出来ないように両手でストールの端を持ち
ピンと伸ばして乾かします。
ストールの保管をする場合は
乾いてから防虫剤と除湿剤を一緒に入れて
湿気がなく暗い場所での保管をお願いします。
置くタイプの防虫剤と湿気剤は
置いた所が色落ちする可能性があるためお気を付け下さい。
ちょっとシワが気になるときはアイロンがけをしてください。
アイロンの温度弱で当て布をして
布目に沿って端から順番にかけることで形が整います。
長くアイロンをあててしまうと
変色の原因になるのでお気を付け下さい。
この夏に出来あがったばかりのストールを選びました。
ストールと一緒に夏を楽しんでみてはいかがでしょうか?
(文/かしはら)
あさがお ~ひと粒の種から大輪に向かって~(後編) Vol.48
前回、「あさがお」の種をまき
たくさんの愛情を受けてのびのびと育ち
花が咲くのが待ち遠しいところまでを紹介しました。
今回は、大きな花を咲かせ、染液となり
あさがおのストールになるまでを紹介します。
2017年7月20日少し遅いですが
待ちに待った1輪が咲きました。
この日の為に種まきから愛情を注いできた前川さんは
あさがおをニッコリと眺めています。
その翌日から1輪、また1輪と
たくさんのあさがおたちが咲いてくれました。
毎朝、あさがおが咲いているのを見つけるのが楽しみです。
皆さんもご存じのように
あさがおは朝の時間に花を咲かせ
昼には閉じてしまいます。
ですので、収穫はいつも朝に行います。
朝の空気をいっぱいに吸い込んで
大きく咲いたあさがおをちぎるのは残念で
もう少し眺めていたい気もしますが
ありがたく、大切に使わせていただきます。
前川さんが毎朝1輪1輪笑顔で摘んで集めます。
毎日コツコツ摘み、これだけ集まりました。
ストールを染めるだけのあさがおを集めるのに
摘み始めてから3週間。
とても貴重な染液です。
昨年までは採ってから染液に浸すまでに
時間が経っていたのに対して
今年のあさがおは採ってから
すぐに染液に浸すことができたので
とても新鮮な染液ができました。
あさがおを種から育て染液にして染めあげたのは
今年が初めての試みでした。
種をまいて芽が出た時の「よろこび」
大きく育ち、花を咲かせた時の「うれしさ」
毎日、咲いたあさがおを見つける「たのしさ」
ひと粒の種から大輪に向かって育ったあさがおたちを。
百々染ストールにして皆さんにお届けします。
昨年までのあさがおのストールとは
一味違う百々染ストールを身にまとって
あさがおのストーリーのラストを飾りませんか?
(文/たけごし)
百々染の〝コト″ ~葉っぱちぎり~ Vol.49
百々染ストールの優しく鮮やかな色たち。
それを支えてくれるのが染液づくりに欠かせない
染料づくり「ちぎる」チームです。
実はこのチーム…工房のムードメーカーなのです。
ただ黙々と葉っぱをちぎっていると思ってはいませんか?
そんなことはなく、毎日にぎやかに盛り上がっています。
玉井さん、吉田さん、吉迫さん。
そしてスタッフの小川さん。
このチームのやりとりを見ている私も
思わず笑顔になってしまうぐらいです。
元気な声でいつも明るく工房を盛り上げてくれている玉井さん。
一枚一枚葉っぱをちぎって容器に入れ
最後に残った茎を少し離れた別の容器めがけて投げます。
うまく入ると、「大・成・功」と
スタッフと声を合わせてハイタッチ。
笑い声が一気に工房に広がります。
その様子を隣で見ていた吉田さんも
思わず声を出して笑ってしまいます。
そんな吉田さんの仕事ぶりは
力強くにぎってちぎった葉っぱを
「えーいっ」と右へ左へ前へと投げます。
ぷちっと葉を取ることと
たくさん飛ばした時の感触がとても好きで
投げた後に満面の笑みをうかべます。
「今日もいっぱいちぎっているね」と声をかけると
さらに笑顔は大きくなります。
(用意していた容器に確実に入るわけではないですけどね…。)
一緒にちぎっている玉井さんのことも好きで
よく玉井さんの方へ手を伸ばし
それに気づいた玉井さんも手を伸ばしてお互いにタッチ。
笑い声が響いて再び大盛り上がり。
その隣で葉っぱちぎりをする吉迫さんは
気に入った葉っぱを見つけると一瞬で目を輝かせ
さっと手を伸ばしてつかみ取り
黙々とちぎっていきます。
その表情はまさに職人のよう。
かと思えば、かわいらしい花が咲いていると
やさしく丁寧にもぎ取って別の容器にためていきます。
たまった花を見つめるのが心地良いひとときです。
スタッフにも「どうぞ!」と手のひらにそっと乗せてくれます。
個性あふれるちぎり手たちと一緒に
工房を盛り上げてくれているスタッフの小川さん。
「仲間と仲間、仲間と葉っぱ」を「つなげてくれる人」です。
一緒に掛け声をかけたり
大きなアクションでちぎり手たちの雰囲気を盛り上げます。
いつも工房はにぎやかな空気に包まれていきます。
ちぎり手たちは小川さんとのやりとりしながらの
仕事の時間が好きなようです。
玉井さんと吉田さんが手を触れあって盛り上がる中
隙を見て吉迫さんはそーっと手を伸ばして
隣の吉田さんの立派な葉っぱを掴んで
何事もなかったかのように黙々と葉っぱをちぎり始める…。
この3人がちぎった染料をもとに
染液をつくり染めのチームにバトンを渡します。
楽しくちぎった草木は元気をもらって
良い染液を作り出してくれています。
百々染ストールに触れてちぎり手たちのたくさんの笑顔を感じてみませんか。
(文/かわなみ)
キバナコスモス(黄花秋桜)~秋の訪れ~ Vol.50
皆さん秋の花といえば
ピンクや白い花を咲かせるコスモスを
想像する方が多いのではないでしょうか?
近年一般的なコスモスに交じり
黄色やオレンジ色を咲かせる
コスモスも多く見かけるようになってきました。
この花はキバナコスモスと呼ばれています。
このキバナコスモス
今年も百々染工房で活躍してくれています。
キバナコスモスには種類があり
小型の「サニー系」
草丈20~30cnでプランターで育てることが出来る「ロード系」
草丈が60cm以上になる大型の「サンライズ」「ディアボロ」
草丈が約1mにもなる「マンダリン」
赤色の花を咲かせる「サンセット」があります。
キバナコスモスも普通のコスモスと同じくメキシコが原産でコ
スモスの花に似ていて
花びらの色が黄色やオレンジ色であることから
その名前がつけられました。
キバナコスモスはコスモスに比べ葉の幅が広く深い切れ込みがあり
繁殖力が旺盛で寒さにも暑さにも強く
真夏でも元気に咲くのが特徴です。
花言葉の「野生美」「野生的な美しさ」も
こういった野草的な雰囲気から由来すると言われています。
そして写真にある百々染工房で活躍しているのは
「ディアボロ」という種類です。
キバナコスモスの特徴は
少量の花でとても濃いオレンジ色の染液が煮出せることです。
見てくださいこの染液の色!!
少量の花でこんなにも濃いオレンジ色を出すことができます。
真っ白のストールを、薄く色を重ねた物がこちらです。
ここから色をだんだん濃くしていき
鮮やかなオレンジ色のストールに仕上げていきます。
ムラをつくらないように
徐々に色を入れていくのがとても難しいのですが
いい色になりますように…と思いを込めて
優しく優しく染めて上げていきます。
力強くも優しい手つきで染めてくれる川島さん。
いい色が入ってきたよ!
と川島さんにも思わず笑みがこぼれます。
9月も中旬になり
朝晩が涼しく秋らしい気候になってきました。
食欲やスポーツの秋とよく言われますが
私はオシャレを楽しむ秋もいいと思います。
秋らしいオレンジ色のストールを身にまとい
秋の訪れを一緒に楽しんでみてはいかがでしょうか?
(文/かしはら)
いぶきからのコメント
色や質感で選ぶのもいいけれど、染料のもととなった植物や、染められた季節、その日の天気や、作り手の表情からも選んでほしい。
同じものは存在しない百々染だからこそ、百々染をとりまくさまざまな「ことがら」や「人柄」から、あなただけの特別な一枚を見つけてください。