いぶき福祉会 にじの部屋 散歩風景えんがわピープルの物語

「できる」が生まれる場所 ──いぶきのグッド・ストーリー⑪加納優汰 編 <前半>

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いぶきからのコメント

こんにちは、いぶき福祉会の和田です。協働責任者として、いぶきの中にもっと対話と協働が生まれるよう日々取り組んでいます。
いぶきでは、日々の活動の中でたくさんの“グッド・ストーリー”が生まれています。そのまま社内に閉じておくのはもったいない。もっと多くの方に知っていただき、障害福祉の現場を身近に感じてもらえたら――そんな思いで、このコラム「えんがわスケッチ」を始めました。
毎回、現場で働くスタッフをゲストに迎え、ダイアログ形式で届けています。いぶきで働く人の情熱やかっこよさ、そして“いぶきらしさ”が少しでも伝われば嬉しいです。
第11回目は、「にじの部屋」を担当する加納優汰さんとのダイアログです。

“できる”を見つけ合うチーム:張り子づくりとクラッカーづくりを通じて

和田: 今回、加納さんをゲストにお呼びしたのは2つ理由があるんですよ。

加納: 僕で大丈夫でしたでしょうか?(笑)

和田: もちろんです。「にじの部屋」の取り組みがすごくいいなと思ったこと。そして、加納さんが異業種から転職してきたことも聞いてみたくて。

加納: そうだったんですね!

和田: まずは「にじの部屋」について聞かせてもらえますか?

加納: 「にじ」には、障害特性が幅広いメンバーたちがいるので、仕事内容もひとつではなく、張り子とクラッカーづくりの2種類があります。全く性質が違う仕事なので、16名の仲間を2つのグループに分けて、午前は片方が散歩、片方がクラッカーづくり。午後はグループを入れ替えて、張り子づくりをします。「にじ」は、1日1回の散歩が必ずある部屋で、仲間も職員もいい運動になります(笑)。

和田: 張り子やクラッカーは、どんなものなんですか?

加納: 張り子は猫の置物です。新聞を細かくしてミキサーで粘土状にし、土台を作ります。工程が細分化されていて、得意なところを担当します。30分ものあいだに新聞を細かくし続けるのは大変ですが、そこが得意で“エース”のように活躍してくれる仲間もいます。水を運ぶのが好きな仲間は、こちらが声掛けしなくても次の工程を理解して動いてくれたり。それぞれの特性が仕事にうまくハマっていくんです。

いぶき福祉会 張り子の置物を制作中

新聞紙から張り子のお着物をつくっていきます


和田:
 僕も机に張り子の猫を置いていますよ。癒されます。以前、街中のスポーツジムの前に重しとして使われていたねこをチームメンバーが発見したんですよ。うれしかったですね。

いぶき福祉会の張り子の猫が街中に置かれている様子

街中で使っていただいている張り子のネコを発見


加納:
 クラッカーは、いちから生地づくりをします。粉を計量して混ぜてこねて、伸ばすところまで仲間と一緒に。焼く直前まで持っていきます。製菓の仕事はハードルが高い部分もありますが、数を一緒に数えたり、手順を確認したりしながら進めるので、仲間が楽しんで集中できます。作業は約40分から1時間ほどやっています。

いぶき福祉会 にじの部屋でのクラッカーづくり

「にじの部屋」では、仲間たちとともにクラッカーづくりに取り組みます

いぶき福祉会のクラッカー

バレンタインの時期に合わせて作ったチョコクラッカー


和田:
 得意を見極めて担当を決める。これはいぶきらしいですよね。動き回っちゃう、水を触りたくなる――そんな“弱みに見える特性”を、逆に強みとして仕事につなげているところが大事なことですね。

加納: 強みって、ふとした瞬間に気づくんですよね。誰かが「そんなに水が気になるなら、持ってきてよ」と声をかけたことがきっかけになって、それが自然に仕事になっていく。決して私だけが見つけたわけじゃなくて、誰かが気づいて、みんなで育てていきます。実は仲間の方から「これできるよ」と示してくれていることも多いんです。

和田: 職員みんなで気づきあっているんですね。よく見ているなぁと思います。

加納: 笑顔だけじゃない日もありますが、「にじ」では年度末に日常の写真を配るので、普段からたくさん写真を撮っています。職員同士で「ここよかったよね」と共有し合って、写真を見ながらその日の出来事を知ることも多いです。気づかなかった仲間の表情が写っていることもあって、見るのが楽しみなんです。

和田: 実は僕は、2026年の手帳に「にじ」の仲間の笑顔の写真を貼ってあるんですよ! 毎日見るたび元気をもらっています。

仲間の話題がチームをつくる。「にじ」にうまれる“共有の文化”

和田: 普段、仲間の話をする時間ってけっこうあるんですか?

加納: ありますよ。仲間が帰る前に、一緒に「今日できたこと」「ちょっと難しかったこと」を振り返ります。

和田: 仲間と職員が一緒に振り返る時間も素敵ですよね。

いぶき福祉会 加納優汰加納: 仲間が帰った後の掃除の時間は、職員同士でその日の様子をよく話しています。

和田: その雑談から気づくことって多いですよね。

加納: ほんとに多いです。ただ自分は今、サービス管理責任者の役割を担っていますので、私がいると話しづらいこともあるやろなと思って、少し距離を置きつつ聞いています。チームが大きいので、知らないまま終わる出来事もあるんですよね。「え、そんなことあったん?」って驚くことも多いです。

和田: いぶきの中では比較的人数の多いチームですしね。

加納: 完璧ではないですが、お互いに話すことの積み重ねで自然と良い時間になっています。関わった職員同士で、「今日こんなふうだったんや」と共有でき、仲間の話題がチームの中心になる文化が育っていると思います。

和田: 加納さん自身は、どう仲間やチームと関わっていますか?

加納: 16人の仲間と12人の職員、計28人の大きい集団なんですよね。固定化せずローテーションするようにしています。いろんな人が仲間と関わって、一人ひとりを見ることで気づきが増えますし、スタッフの体調不良などがあっても助け合える体制になります。

和田: いぶきは同性介護ですよね。女性のスタッフが女性の仲間をみて、男性のスタッフが男性の仲間をみる。だから加納さん自身は男性の仲間と関わることが多いですよね。

加納: はい。なので女性の仲間については女性の職員に共有してもらっています。

和田: みんなで補い合っている姿が、いぶきらしいですよね。

加納: そう思います。みんなで活動している感覚がすごく強いです。

外へ開いた「にじ」の一歩。美術館との大切なつながり

和田: 「にじ」の部屋では作った張り子を、岐阜県立美術館に納品しているんですよね。今はどんなお付き合いなんですか?

加納: 岐阜県美術館に張り子のねこガチャが置いてあるんですよ。

いぶき福祉会が岐阜県立美術館におさめている張り子のねこガチャ

岐阜県立美術館で出会える、張り子のねこガチャ

和田: 好評だと聞いていますよ。

加納: 先日、張り子をテーマにした「ケアリングカフェ」というイベントを主宰しました。そのときに、美術館の方をゲストでお呼びして、私たちとトークをしました。

いぶき福祉会のケアリングカフェ

2025年11月に加納さんが登壇したケアリングカフェ

加納: 仲間たちが美術館に行くと、静かに鑑賞などはできないため、美術館に行くこと少人数でしか行けていなかったんです。でも、ぜひいらしてくださいといっていただいて。

和田: 美術館の方の言葉も印象的でしたよね。「静かにしなくていい」「走り回ってもいいから来てください」って。

加納: 本当に心強かったです。私たちもつい「走ったらどうしよう…」と身構えてしまうので。でも、必要以上に気を遣いすぎていたのかもしれないと気づかされました。

和田: あの言葉があったから、すぐ「じゃあ行きます!」ってなったんですよね。

加納: はい(笑)。すぐ仲間と一緒に訪ねました。ガチャガチャも体験させてもらえたんですよね! 外に出る機会が少ない部屋なので、美術館とのつながりはすごく大きいんです。部屋の中だけでは見えない仲間の表情や反応も、外に出かけると出てきます。それを職員みんなで共有できるのもありがたいですね。

和田: そうそう、名前で呼んでいただける仲間がいるって聞きましたよ!

加納: そうなんです、仲間のFさんのことをすごく覚えてくださっていたのが嬉しかったですね。「挨拶してくれる方ですよね」って。Fさんのまっすぐな挨拶は、本当に人の心をつかむんですよ。

和田: 僕らはつい「仲間たち」とまとめて呼びがちですが、彼女は“Fさん”として、名前で覚えてもらっていますね。その関係が本当にいいんですよね。いぶきが目指しているところです。

加納: 彼女の持つ力だと思います。あの自然さは、誰にも真似できない魅力ですね。

和田: 「にじ」の取り組みは、ほかの部屋の参考になることが多いですね。このエピソードだけでも、いろんな大事なエッセンスが詰まっているなと思います。

加納: 美術館とのつながりが、仲間にも職員にも大切な経験になっているので、これからも続けていきたいですね。

後半に続く。
後半は、加納さんが別の業界から転職してサービス管理責任者になるまで、そしてこれからの物語です。

いぶき福祉会 加納優汰と和田善行

いぶき福祉会 加納優汰(左)、和田善行(右)

 


いぶきのグッド・ストーリー! 

竹腰龍太 編  前半:仲間を大事に、自ら考え、柔軟に支援できる現場をつくる
竹腰龍太 編  後半:多様性が許容され、障害福祉の理解がもっと拡がる社会をつくる
藤井美和 編  前半:障害の重い仲間の「暮らし」を支える楽しさと大切さ
藤井美和 編  後半:助けてもらうだけではない、貢献感覚を持てる社会を
小田由生 編:音楽という共通の話題を媒介に、障害のある仲間とよい関係がはじまった 
小田由生 編:できない理由より、実現にむけて行動するチームが、仲間や地域の可能性をひらく
二村菜穂子 編:隣人同士が声をかけあい、ケアしあうからはじまること
二村菜穂子 編:お互い様の心で、誰もが障害福祉に参加できる未来
笠井公子 編:障害のある仲間と取り組む岐阜市のペットボトル・リサイクル
笠井公子 編:地域の皆さんとの関係を結び、支えられてこそ今がある
⑪加納優汰 編:「できる」が生まれる場所(現在の記事)



【スタッフ募集中です!】———–★★★

ここに集う一人ひとりがかけがえのない存在。
障害のある仲間の活動と暮らしを支え、
いろいろな方と協働する地域にひらかれた場所です。
そんないぶきの未来を一緒につくるスタッフを
募集しています。

コラム:スタッフ・ダイアログ 「いぶきで働くということ」
採用情報:詳細はこちら(ibuki-komado.com)
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この記事を書いた人

いぶき福祉会 和田善行

和田善行

わだ よしゆき
社会福祉法人いぶき福祉会 法人本部 事務長
協働責任者/社会福祉士/インターミディエイター

大学時代には、筑波大学で数学を専攻すると同時に、ボランティア・サークルを新設。障害のある方々の生活課題にまなざしを向けて、プロアクティブに活動していました。卒業後も活動を継続しながら、神奈川県丹沢主脈の山頂にある山小屋にて小屋番を経験。その後、高齢福祉の分野を経て、再び障害福祉に立ち戻るため、岐阜に移住し、社会福祉法人いぶき福祉会に所属。現在、協働責任者として、団体内外との協働を促進し、クリエイティブ・ワークチームの形成に取り組んでいます。さらに、人間回復と再生につとめながら、“競争のない、多様性が許容される社会”の実現を目指しています。

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