裏紙の居場所 | 思いを育み、役割を作るえんがわピープルの物語

裏紙の居場所

執筆:

いぶきからのコメント

2019年6月より、仲間のアート活動『つむぎアート教室』の立ち上げから関わっていただいています。その時間を楽しみにする仲間が多いのは、見尾谷さんのあたたかな人柄とその場の穏やかな空気感なのかなと思っています。仲間の想いを大切にしながら、表現の可能性を探ってくださり、ひとりひとりにあわせた画材や表現方法なども工夫してくれるお陰で、それまでアートというものには無縁だった仲間が自分の作品を創り出すことができています。
そして、これからもアート活動以外でも一緒に楽しいことをスケッチしていけたら、そんなに嬉しいことはありません。

私が美術教室の先⽣になったキッカケは⼩学⽣時代の⼩さな出来事にあります。
今思えばバトンを渡されたのかもしれません。
 
 
次の⼦供たちに、つなぐためーーー ⼩学校時代のわたしは、ほとんどクラスメイトと会話をしたことがない というほど、おとなしい⼦供でした。
どうすれば仲良くなれるのか、わからない。
学校に⾃分の居場所をみつけることが なかなかできずに悩んでいました。
でも、絵や⼯作は得意だったんです。
図⼯の授業のときは、クラスメイトから注⽬のまと。
恥ずかしいながらも、わたしは、ココにいてもいいんだというはじめての感覚をおぼえました。
それからは、だれかに褒められたくて 家でもひたすら絵を描く⽇々。
そんな家庭訪問のある⽇のこと。
⺟親が担任の教師に向かって、すこし困った⼝調で話し始めたんです。
「うちの⼦は、家で絵バッカリ描いているんですよ。」
それを聞いたわたしは、告げ⼝されたような気分になり、顔が真っ⾚になるのを感じました。
 
 
そして、翌朝。
教室に⾏くと、窓辺の棚の上にある1つのダンボール箱が⽬に⼊りました。
その中には、以前に配布されたであろうプリントがドッサリ⼊っていて、箱のオモテにはこう書いてあったんです。
“らくがき⽤”と。
いったい何だろうって思っていると、“ガラガラ”と教室の⼾が⾳を⽴て 先⽣が教室に⼊ってきたんです。
きのう、家のリビングで⺟親と わたしの話をしていた相⼿です。
あのイヤな記憶がわきあがると同時に、宿題もせず、“らくがき”ばかりするわたしを きっと叱ってくるにちがいないと ⾎圧がギュッと⾼くなり、逃げ出したくなりました。
けれど、わたしに気づいた先⽣は いつもよりやさしいまなざしと あかるい⼝調で声をかけてきたんです。
「その紙のウラに絵をいっぱい描いていいからね。」予想に反した⾔葉でした。
恐れていた気持ちは⼀瞬で吹き⾶び、「ここにいてもいいんだ」という安⼼できる居場所ができたような感覚を わたしを包み込みました。
つかわなくなった紙と、ダンボール箱。
それが、教室に置かれてただけなんです。
それでも、先⽣は、わたしを気にかけてくれてた。
先⽣は、わたしを認めてくれてた。
わたしの好きなものを、家族以外の⼈が認めて、応援してくれていることが どれほどうれしかったことか。。。
⾃分の教室をつくる機会が訪れたとき、この出来事を思い出しました。
 
 
創作活動をとおして、⼦どもたち⼀⼈⼀⼈の個性を⼤切にして、⼼のよりどころとなるような教室をつくりたいと、決意しました。
それから、試⾏錯誤しながら15年。
ようやく納得できる教室ができあがりつつある と感じています。
教室には、いろいろな⼦どもが来ています。
でも、⼦どもたちはみんな共通して “表現する”ことが好きで、互いの違いを認め合う楽しみ⽅を知っています。
はじめはとても緊張していても、だんだんと⼼が開放され、イキイキとした表情いっぱいに 作品づくりを楽しんでいます。
⼩学校では、学校に⾏けない不登校の⼦どもが増えています。
わたしの教室にも「学校には⾏けないけど、“こっちーず”には来てるの!」と明るく話してくれる⽣徒がいます。
しばらくして学校に通えるようになったようですが、⾃宅ではないどこかに、⾃分の居場所があるのはとても幸せなことです。
わたしも⼦供だったら、“こっちーず”に⾏きたかったです(笑)
 
 
いぶき福祉会さんから、“アートの⽇”の出張講師のお話をいただいたとき、わたしに何ができるんだろうと思いました。
普段、わたしは絵がうまく描けるようになる技法にかかわる指導は あえてしないようにしています。
⽣徒から求められれば、答える程度にとどめておくことで、純粋に表現することを楽しみ、チャレンジする気持ちを育てたいのです。
わたしは、その場に応じて指導⽅法を変えられるほど器⽤ではありません。
ですので、うまく絵が描けるような⽬に⾒える成果を あまり求められると困惑します。
でも、スタッフの⽅から、「あせらないので、のんびりやってくれればいいよ」と⾔っていただき、「とりあえず、やってみよう!」と⾶び込みました。
“アートの⽇”には、描くことが好きな皆さんが集まります。
描き⽅は、それぞれみごとに違います。
⾝体的にも性格的にもみんな個性的です。
握⼒のよわい⽅、ふでを握るのが苦⼿な⽅も “アートの⽇”を楽しんでいます。
ふだんの⽣活では、不便なこともあるかもしれませんが、アートではそれが個を表現するスパイスになると、わたしは信じています。
 
 
わたしは、皆さんにアートを通して表現のお⼿伝いをしているに過ぎません。
どんな描き⽅で、どんな表現を望んでいるのかをよく観察しながら、気持ちよく楽しめるような画材を提案しています。
⾊えんぴつの⻑さは最適か?
⾊数は?太さは? マーカーか?筆のほうがいいだろうか? 試⾏錯誤はつづきますが、皆さんの楽しさそうな顔が⾒られたとき、わたしまでうれしくなります。
それは、⼩学⽣のわたしが絵を描いていたときと同じ顔です
 
 
わたしの理念を⼤切にして、 いぶき福祉会の仲間の皆様と 何年もいっしょに取り組めていることはすばらしいことです。
これからも、仲間の皆様の素敵な笑顔の お⼿伝いができますように。  
 
 

この記事を書いた人

裏紙の居場所 | 思いを育み、役割を作る

見尾谷諒子

みおたに りょうこ
「こどもの⼩さな図⼯室 こっちーず」の先⽣。
表現することが⼤好きな⼦供たちに、⾃由に創作できる場を作りたいと2006年に教 室を設⽴。 いぶき福祉会さんには⽉2回、⼤量の画材と本を持ち込んで出張教室をしています。 みなさんの素直な絵にいつも感動とパワーをもらっています。 図⼯室を運営する傍ら畑と森の⼿⼊れをするのが趣味。

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