ケアを文化に──「またね」がある日常をひらく【北川コラム Vol.7】 | つながり、価値を創るえんがわピープルの物語

ケアを文化に──「またね」がある日常をひらく【北川コラム Vol.7】

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いぶきからのコメント

あけましておめでとうございます。
新しい年を穏やかに迎えられることに心より感謝いたします。

仕事始めの日、僕は朝から事業所をひとつひとつまわります。早く来たくて仕方がなかった仲間たちと、仲間に会いたい気持ちがふくらむスタッフたちが大集合するので、どこもワクワクが満ち溢れています。いい場所だなと嬉しくなります。

今年は、いぶきの中にも外にも、これまで以上に多様な「かかわりしろ」をつくっていこうと思います。僕たちはついつい頑張っていることばかりを伝えてしまいます。それが仲間たちの誇りや家族の方々の希望、応援してくださる方への応援しがいとお礼になると思って。でも、それ以上にできないことや困っていることがたくさんあって、実はそれこそが、多様な人との関係を育む大切な「余白」だということも大切な視点だと思っています。
そんな対話の機会を丁寧に開いていきたいと思います。ご一緒いただければ幸いです。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

法人本部 業務執行理事 北川雄史

「働く」とは何か

新しい年を迎えるにあたり、改めて考えたいことのひとつは、「働くとは何か」という問いです。

2007年頃、障害のある方々の工賃アップが社会的課題として注目され、就労系事業所の設備投資への助成が拡大されるようになりました。いぶきも、かりんとうづくりなど、モノづくりを通じて歩みを進めました。しかし、苦しい経験もしました。設備を導入してモノを作れば、生産の強化や効率化が求められていきます。また、当時はモノを作った分、販売に力を入れなければならないと考えていました。

そこには、重度の障害がある仲間たちが「できない人」として排除されかねない構造がありました。その結果、声の小さい人や声なき人の存在が、社会から見えなくなる危険性を感じたのです。働くって何なんだということが好き勝手に解釈されていることも感じました。こうして障害の有無や種類を超えて、誰にとっても意味のある「働く」という概念を再構築する必要があると考えるようになりました。この視点は今も変わっていません。

(今では、ただモノを売るのではなく、モノを媒介に「関係づくり」をすることが私たちの活動だと考えるようになっています。)

「働く」とは、一人ひとりの「できること」をエンパワーすること

いぶきでおこっている様々な「働くこと」は、見方によって色々な解釈ができます。ある人から見れば、工賃アップの取り組みにみえるでしょう。ある人から見れば、新しい仕事をつくっている活動にも見えます。また別の人から見れば、地域協働にも見えると思います。生活介護にみえないような活動に見えることもあります。視点は人によって異なりますから、いぶきを特定の型にはめて一面的に語ることはできません。

ですからこうした一様ではない語り方は、いぶきに集う仲間たちの多様さを表現しているとも言えます。一人ひとりの特性に合わせて、その人が「できること」をエンパワリングしているからこそ、多様な仕事が生まれ、多様ないぶきのイメージが広がっています。

そんな色とりどりのいぶき福祉会の軌跡を、改めて物語として皆さんと共有したくて行ったのが、2024年7月に30周年を記念したぎふメディアコスモスでのギャラリー展示でした。

いぶき福祉会30周年ギャラリー展示
いぶき福祉会30周年ギャラリー展示

30周年記念イラストが示す未来:お互い様で支えあう社会のビジョン

30周年記念で制作したもののひとつに、未来イメージのイラストがあります。これからどんな未来社会になっていくかを、ひとつのイラストにしてみようという企画でした。我ながらとてもいいイラストに仕上がったと思っているのですが、この制作プロセスが、また印象深いものでした。というのも、最初に出来上がってきたイラスト案を、みんなでガラッと書き換えていくプロセスになったからです。

最初のイラスト案は、見た瞬間、これがまだまだ一般的なイメージなのだなと痛感するものでした。「障害者施設を中心にして、それを人々が取り囲む」構図だったんです。それでは、これだと障害のある仲間たちが限られた場所の中で閉じ込められてしまいますよね。隔離を連想させてしまいます。

そうではなく、私たちが目指すのは、誰がどこにいるかわからないほど、人々が自然に混ざり合う街の風景です。

障害は見える場合もあれば、見えない場合もあります。いぶきに集う人々に限らず、見えない生きづらさを抱える人たちもいます。100人の人が働く企業があれば、そのうち、14人~15人は何らかの当事者性を持っているといういっても過言ではありません。そうした人たちも、みんなまじりあって、お互い様で支えあう社会をつくりたいね、という未来社会を、イラストを描きながらイメージしていきました。

閉ざさず、ひらき続けていく

では、今はどうかというと、まだまだそこまでは到達していないなと感じています。

もちろん、一般的な会社であっても、いつでもふらっと立ち寄っていい場所ではありませんし、仕事場にしてもすべて一般開放して仕事をしているわけではありません。いぶきも、全部が全部をひらいていこうというわけではもちろんないのですが、少なくとも、触れてはいけない場所、行ってはいけない場所のイメージにはなりたくないんですね。日常的に訪ねたり、挨拶したり、触れ合ったりできる場所でありたいのです。

たとえば、「日光町の家」では、えんがわマルシェの開催を重ねてきました。ここでは、地域の子供たちや、ご家族連れ、そしてご高齢の方々が、自然と立ち寄って、楽しい時を過ごせる場になってきています。

また、車で30分ほど離れたところにある北部事業部では、毎年10月に「ハッピーすまいるフェスティバル」を行っています。この日は、地域の方々が、ジャムづくりや染物を体験できるワークショップに参加したり、交流を楽しんだりしています。こんなふうに、非日常的なイベントとしてひらかれた場をつくることは、コロナ禍まで30年続いた「いぶきふれあいまつり」をはじめ、これまでも実施してきています。ただ、イベントの時だけひらいて交流することを超えて、いつでもひらかれたいぶきでありたい、そんな思いをイラストにも表現しました。

イラストの中に書き込んだ「また明日も来るよ」というフレーズは、単なる挨拶ではなく、人と人のつながりを表したものです。過当な競争や分断が、挨拶をしたりお互いを思いやったりするような、僕たちが当たり前にやってきたことを奪っているのなら、いぶきをひらいていくことで、地域が失ったものを回復していく機会を提供していけるのかなとも考えています。

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働く場をひらき、街の文化に

ひらかれたいぶきに関連して、2026年以降で検討していきたい課題がたくさんあります。そのひとつは仲間たちの高齢化です。たとえばかりんとうづくりに携わる仲間たちが高齢化すると、今までのようには働けない可能性が出てききます。そうすると、かりんとうの生産量が減る局面を迎えることになります。

かりんとうは地域の山本佐太郎商店さんとの協働でもあるので、いぶきだけの問題ではすまされません。そこで、かりんとうづくりを、地域にひらかれたものにしていく発想が湧いてきます。今までは、いぶき福祉会の中で、いぶきに通う仲間たちだけで製造していたかりんとうですが、いぶきの外の方も働ける工房を設け、仲間だけでなく、地域の皆さんとともにかりんとうをつくるという構想はいかがでしょう?

イラストで描いた未来社会には、かりんとう以外にも、パンやカフェ、染め工房や畑での農業などもありますが、僕たちは、こうした協働体験を提供する場を積極的に広げ、地域の文化をつくる仕事へと発展させたいと考えています。このとき「手伝う・手伝ってもらう」という上下関係ではなく、共に場を創り、関係を豊かにすること。それが障害のある仲間たち一人ひとりのアイデンティティと所得を生み出すと考えています。

街にベンチを。クラウドファンディング実施中

30周年のイラストには、「こんにちは」と挨拶することだったり、「荷物を持つよ」「手伝うよ」ということだったり、お互いに声をかけあう場面をたくさん描いています。そして、こんな会話ができる「ベンチ」を、イラストに描き入れていました。

昨年、毎年実施している岐阜市のガバメント・クラウドファンディングで何をやりたいか、職員みんなに問いかけて出てきた案が、この「ベンチ」でした。30周年で未来社会のイラストを制作したときには、このクラファン構想はなかったのですが、みんなの思いの中に、街にひらかれていく願いがあったのではないかと思います。

ということで、現在、クラウドファンディング【まちなか「えんがわベンチ」プロジェクト】に挑戦中です。これは、縁側のように、内と外をつなげる場所を街中につくっていこうという取り組みです。

皆さんからのご支援で街中に座れるベンチが増えれば、そこが障害のある仲間たちと地域の人たちが自然に出会える場になっていきます。ご高齢の方々がお散歩で疲れたら、少し休憩もできる空間が生れます。地域の人たちの出会いの機会につながるでしょう。岐阜市の郊外では、車社会の影響で、歩く人の声が埋もれがちです。だからこそ、ベンチを置くことに意味が出てきます。この他にも、地域を理解するためのワークショップなども開催していく予定です。

また、設置やメンテナンスを、賛同してくださった方々と共に行うことは、これ自体が協働の機会になります。ベンチを一緒にケアすることが、お互いをケアする気持ちが生れ、「ケアの文化」を育くむことにつながります。

ぜひご賛同いただける方は、クラファンにご参加下さい。お願いいたします。

★クラウドファンディング、1月10日まで開催中
まちなか「えんがわベンチ」プロジェクト ゆるやかなつながりを育む岐阜へ
https://www.furusato-tax.jp/gcf/4612

ケアを文化に──「またね」がある日常をひらく【北川コラム Vol.7】 | つながり、価値を創る

2026年は、ひらかれた心でつながる一年

いぶきを見学していただくと気が付くかもしれません。実は、いぶきの建物には塀がないんです。壁や門扉をつくろうと検討したこともありません。ですから、もともとひらかれた考え方を持っている団体なのだと思います。

今年も、物理的な壁があっても、心の壁のないひらかれた街を目指します。「こんにちは」「ありがとう」が飛び交い、「またね」が自然に積み重なる日常を、いぶきから地域へ広げていく一年にしたいと考えています。「ケアを文化に」を合言葉に、ぜひ協働していきましょう。

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この記事を書いた人

ケアを文化に──「またね」がある日常をひらく【北川コラム Vol.7】 | つながり、価値を創る

北川雄史

きたがわ ゆうじ
社会福祉法人いぶき福祉会 法人本部 専務理事
協働責任者/社会福祉士/インターミディエイター

1969年京都市生まれ。高校までを神戸ですごし、1997年に社会福祉法人いぶき福祉会に入職。それ以来岐阜で暮らしています。
「ものづくり(作って売る)」から「関係づくりの先に仕事と収益がうまれる」ことへの転換とそのモデルづくりに取り組んでいます。
障害のある人との日々の営みを、新しい価値観にもとづく協働社会の幸せのひとつの形として物語り、ソーシャル・キャピタルの醸成と誰もが支え合いながら人間らしく生きられるケアリング・ソサエティの実現を目指しています。

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とりちゃん やま