“関係づくり”を重視して生まれた「共感会員」の新制度【北川コラム Vol.5】 | つながり、価値を創るえんがわピープルの物語

“関係づくり”を重視して生まれた「共感会員」の新制度【北川コラム Vol.5】

2024年7月に、社会福祉法人 いぶき福祉会は30周年を迎えます。これを機に、25年前からいぶきを知る北川が、コラムをはじめてみようと思います。30周年を迎えるにあたってのおもいとは? つくりたい未来とは? 大切にしたい考え方とは? いろいろな角度から語っていきます。

第5回は、ファンドレイザーからは驚かれる、いぶきの「共感会員制度」について、お話しします。

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いぶき福祉会が「ファンドレイジング大賞」で入賞したワケ

去年、僕たちは、「第13回日本ファンドレイジング大賞」で入賞、という栄誉をいただいたんです。日本ファンドレイジング協会が主催の賞で、いぶき福祉会が行うファンドレイジングのアプローチを評価いただきました。

先駆的だと講評いただいたのは、「集める金額を目標にしない寄付活動」だったからだと思っています。僕たちの場合は、金額ではなく、「関係づくり」を重視します。

福祉の業界では、グループホームを建てるなど新しい活動をするたびに、募金をしたり、寄付をお願いしたりする機会が多々あります。以前のいぶき福祉会では、そんな時には目標数値を掲げて、その数値ゴール達成のために目標という名の「ノルマ」を分担し、「募金運動」を行うスタイルでした。

しかし、コロナ前から、僕たちはお金を達成目標にすることをやめました。

皆さんは寄付活動をするときに、人がお金に見えてきてしまうことがありませんか(笑)。あの人はいくら、この人はいくらの見込みがある人だ、とか(笑)。それって、とてもイヤなことですよね。また、昔と違って、最近では、数値ゴールを課せられた若いスタッフたちが疲弊して、つぶれてしまうことが懸念・予測されました。

ですから僕たちは、数年前から、金額を追うのではなくて、つくれた「関係」を重視することに切り替えました。

今では、クラウドファンディングへ、いったい何人の方々に参加していただけたかを見ています。コロナ前とコロナ禍に、いくつかのクラウドファンディングに挑戦したのですが、そこで実施したのは、「関係づくり」をベースにした寄付活動でした。

◆参考情報:「関係づくり」を重視した、クラウドファンディング実績
岐阜に重い障害のある人が暮らせる新しいグループホームの建設を(2019年)
障害福祉から『ありがとねバスケット』を届けたい。楽しい、おいしいで対話する社会(2021年)

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様々な参加の仕方を包摂するクラウドファンディング

クラウドファンディングは、参加してくださる方々にとって、色々な関わり方ができるプラットフォームです。たとえば、ウェブ上に情報があるので、遠く離れた人もプロセスに参加ができます。

寄付という形で参加ができることに加え、お金を出さなくても、クラファン情報をSNSなどでシェアして応援し、頑張れ!を伝えることもできます。

実施する僕らにとっても、今まで出会わなかった人に会えるチャンスです。

こんなふうに、いぶきでは、クラウドファンディングを、多くの方々との出会いや関り方をつくる手立てとして活かしています。

 “リターン”と呼ぶのですが、クラファンを実施すると、寄付への返礼品を設定します。この返礼品には、いぶきの仲間たちがつくる商品、たとえば、招き猫マドレーヌかりんとうジャムお茶百々染(ももぞめ、草木染)などが使われます。

このように、クラファンでは、後日、“リターン”をお送りする約束をしますので、先にご注文をとって生産することになるわけです。これは僕たちにとってはありがたく、在庫を持たない予約生産が可能になります。仲間たちにとっても、やりがいが生まれます。

というのは、不特定多数の人向けにつくるのではなく、楽しみに待っていてくださる顔の見える方たちのために、ものをつくることができるからです。クラファンはいまや、彼らが仕事をする誇りや喜びを感じられるプロジェクトのひとつになっています。

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「関係づくり」を重視することで生まれた「共感会員」制度

クラファンに加えて、もうひとつ、「関係づくり」を意識する中で、ここ数年で新たに始めたことがあります。それは、「共感会員」の制度です。

なにかというと、会費はいりません、ゼロ円で結構なので、いぶきを共感やアクションで応援していただけませんか、という制度です。

ことの発端は、会員さんからの問い合わせでした。

ここ、7、8年ぐらいのことなのですが、会員をやめたいとおっしゃる方が増えてきました。年金暮らしになって家計がしんどいからという方もいらっしゃいます。父が会員だったが亡くなったためとご家族から連絡をいただくこともあります。

しかし、こうした方々は、いぶきがはじまった30年前から応援してくださっている方であるケースが多いんです。このような、いぶきにとって大事な方々が、お金のことで会員をやめないといけないことが、最初に気になったことでした。

どうしたら関係がつづけられるのか?

この方々の力があって、今までいぶきが歩んでこられたことを忘れないためにも、会員でいつづけていただきたい。そのためにはどうしたらいいだろう。

そこで考案したのが、「共感会員枠をつくってしまおう」ということでした。その方には、お支払いはしなくてよいので、会報誌をお届けします、とすればいい、ということなんです。

ご高齢になっても、届いた会報誌を読んで、いぶきに「頑張れ」と言い続けていただきたいですし、気持ちがつながっていてほしい。今まで通り、いぶきのコミュニティにゆるく関わってもらうことができればと考えて、制度をつくりました。

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会費不要でも会員でいつづけていただきたい理由

これは「発想の転換」でした。会員とは会費を納めることが必須だという考え方からの転換です。

共感会員枠ができたなら、そちらに移りたいという会員さんがいらっしゃれば、そうしていただいて構わないとも、考えています。また、会費をいただく形にはなっていないけれど、つながりや時間や手間や知恵や素材といった様々な形の応援をくださる方もいぶきのコミュニティの一員だと思いたい。

会費をお支払いしてくださっている方と、会費を負担することが難しい方、どちらが大事ということではなく、どちらも大事にしていきたいと思っているんです。ただ、幸いにも、いぶきを応援してくださっている方の中には、金銭的な損得感情だけではなく、こうした考えをご理解いただける皆さんが多いような肌感覚を持っています。

もちろん、共感会員制度の話をすると、周りからはびっくりされます。ゼロ円でいいんですかと、ほかの会員施設や福祉業界の方、ファンドレイザ―の方々からは驚かれます。郵送代や印刷代など、多少なりとも出ていく費用があり、マイナスではないかと指摘されます。

でも、俯瞰したら、僕らにとってプラスしかないのです。
いぶき福祉会をご存じの方が一人でも生まれれば、それは僕たちにとって大きなことです。ゆるやかな関係ができれば、応援し続けていただけます。イベントや講座、クラファンなどを開催した際にも、アクションで示していただけます。参加したり、応援したり、協業したりする機会が生まれ、相互に信頼関係ができていきます。

この先に見えるのが、ソーシャル・キャピタル豊かなコミュニティ

こうして「関係づくり」を丁寧に積み重ねていく先には、ソーシャル・キャピタルが豊かな地域社会が見えています。信頼関係があって、お互いに助けあえて、ゆるやかにつながっていれば、誰も取り残さない状態がつくれます。僕らはこれを問われているのだといつも思っているので、その観点から、共感会員制度の誕生は、すごく自然なことなのです。

30周年にあたり、これまでの30年をたどるときに、長く応援してくださっている方たちには、丁寧に30周年のご案内することになります。会員の皆様には先日発送した4月の会報誌でもご案内をしています。関係が残っているからこそ、「ありがとう」が伝えられるので、これは僕らとしてはありがたいことです。

若いスタッフたちにも、共感してくださる人たちとの関係があってこそ今があることを、語り継いでいかないといけないなと思います。それは単に過去から引き継いでいる遺産ではありません。そこからまた新たに生まれるものが、必ずあります。学ぶものが、必ずあります。この共感会員制度を、未来のために大事に育んでいきたいと考えています。

◆参考情報:
いぶきの会員制度はこちら
共感会員へのご登録はこちら

*仲間とは: いぶき福祉会では利用者の方々を「仲間」と呼んでいます。詳しくは【北川コラムVol.1】へ。

 

【アーカイブ】
北川コラムVol.1 1995年。いぶきのはじまり、僕の節目
北川コラムVol.2 「対話し、協働できる社会」をつくる30周年記念事業を
北川コラムVol.3 「いぶき ふれあいまつり」が、コロナ禍を経て地域といぶきに残したもの
北川コラムVol.4 新ショップ「ねこの約束 第2章」をはじめるワケ ─対話を重ねて、協働が生まれる場をつくる─ 
北川コラムVol.5 “関係づくり”を重視して生まれた「共感会員」の新制度 (現在の記事)

 

いぶき福祉会 30周年ロゴマーク

この記事を書いた人

“関係づくり”を重視して生まれた「共感会員」の新制度【北川コラム Vol.5】 | つながり、価値を創る

北川雄史

きたがわ ゆうじ
社会福祉法人いぶき福祉会 法人本部 専務理事
協働責任者/社会福祉士/インターミディエイター

1969年京都市生まれ。高校までを神戸ですごし、1997年に社会福祉法人いぶき福祉会に入職。それ以来岐阜で暮らしています。
「ものづくり(作って売る)」から「関係づくりの先に仕事と収益がうまれる」ことへの転換とそのモデルづくりに取り組んでいます。
障害のある人との日々の営みを、新しい価値観にもとづく協働社会の幸せのひとつの形として物語り、ソーシャル・キャピタルの醸成と誰もが支え合いながら人間らしく生きられるケアリング・ソサエティの実現を目指しています。

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