岐阜県総合医療センターNICUロゴのお話 | いのちと生活を支えるえんがわピープルの物語

岐阜県総合医療センターNICUロゴのお話

執筆:

いぶきからのコメント

いぶきデザイン室は私たちの誇りのひとつです。その役割はグラフィックやプロダクトのデザインすることではなく、人と人をつなぐこと。そして人をエンパワリングすること。元気と勇気が湧くささやかなお手伝いをすること。寺澤さん、貴重な経験をさせていただいたことに心より感謝します。綴ってくださった物語を読みながら、心が震えています!

多くの企業には「ロゴ」が存在する。
みなさんが会社を思い浮かべると、きっとそこにはロゴも思い浮かぶものだと思う。
JALといえば鶴丸だった昔、ある時期そのロゴが変化した。
素人なりには「スマートな感じだ」と思ったが、デザイナーさんたちに言わせれば失敗ロゴの代表だったらしい。
そしてその後JALは経営破綻、立て直しの後にまた鶴丸に戻った。
ロゴを変えたから破綻した、というわけではないが、この一連の流れを見ていて、ロゴというのは理念・目指す姿・構成する人たちの心を表すものなんじゃないか、と感じたものだった。
 

 

さて、私たち岐阜県総合医療センターNICUは、多くの子どもたちや家族とともに、本年で35周年を迎えた。
ここに至るにおいて、誰からともなく「うちのNICUにもロゴが欲しいね」という声が上がった。
誰かロゴ作れる人?とスタッフに問うてみたものの、そんな器用な人はもちろんおらず。
あの看護師さんなら絵が上手いからなんか書けるんじゃない?とか、先生パソコン器用だからなんか書いてよ、とか擦りつけあうものの、もちろん誰もが無理無理無理、としか答えようがない。
 

 

そんなときにふと思いついたのが、いぶきデザイン室。
僕たちと立場は違えども、懸命に生きるいのちと共に歩む職員さんたち。
この方々だったら、きっと「今を一生懸命に生きようとする赤ちゃんと家族と、それを支えるスタッフの心」を的確に表現してくれると思った。
 

 

デザイン室の方々のNICU見学、我がスタッフらとのヒアリングを経て待つこと数週間。
上がってきた初案が6つ。
どれもがものすごく深い思いを込められていた。
素晴らしすぎて、スタッフらで見ながら「決められない!」と贅沢な悩みに変わった。
スタッフ全員での投票を行い2案まで絞り込む。そこで今度は色違い案が提示され、またもや「んもー、どれも素晴らしすぎて決められない!!」とまたもや贅沢に悩む。
 

 

この悩みと同時に考えたのが、ロゴにどんな言葉を載せるのか、ということであった。 
Gifu NICUは絶対。
加えて、自分たちはどんなことを大切にしたいのかということを一言で表そう、となった。
 

 

 

私たちには4代目新生児搬送専用救急車「すこやか号」がある。
この救急車のデザインを作る時、病院から提示されたのは「岐阜県総合医療センター」と「母と子の医療センター」の二つがわかるように入れてくれ、ということだった。
母と子の医療センターとは、国が定めている「総合周産期母子医療センター」を病院が勝手に言い換えたものであり、当院独自のものである。
しかし僕にはそれは、デザインとして耐え難かった。
漢字が多すぎてデザインが崩壊するのだ。

 

ちなみに3代目すこやか号は「岐阜県総合医療センター」「母と子の医療センター」「母体新生児搬送専用救急車」「すこやか号ver.3」と文字が入っており、それはそれはイけてなかった。
イけてなさすぎて、3代目納車日に一眼見て「なんちゅーひどいデザインだ!」とボロカスにこき下ろして部長のとなりで憤慨していたら、部長が「僕が作った・・・」とぼそっと呟いたのは、背筋の凍るいい思い出である。
 

 

さて、4代目すこやか号のデザインの課題、「岐阜県総合医療センター」「母と子の医療センター」の二つを入れる、というテーマ。
いろいろ悩みに悩んで、母と子の医療センターを英語に置き換える、という荒技を考え出した。
しかし、ただ英語に変えると文字が多くなり、やはりダサくなる。
しかも緊急走行中の救急車、あっという間に通り過ぎるところにごちゃごちゃ書いてあっては読めやしない。
その時に考えたのが「Save Baby and Mom」だった。
赤ちゃんとお母さんを守ります、だ。
これで病院からOKが出た。

 

そんなことがあり、ロゴに載せる言葉として「Save Baby and Mom」が最終候補となった。
多くのスタッフらもそれがいいね、となった。

 

しかしその時、ある若いスタッフからこんな声が上がったのだ。
「私たちが守りたいのは、赤ちゃんとお母さんだけじゃないと思う。お父さんもきょうだいもおじいちゃんおばあちゃんも含めた、この子とその家族を守りたいと思っています」と。  

 

心が震えた。
素晴らしいスタッフに恵まれていると感じた。
 

 

そうなのだ。
僕たちはNICUという場で小さな命を守るとともに、家族が家族たるものに育っていく過程を支える、ということを一生懸命にやっているのだ。
小さな赤ちゃんが握り返してくれる手はその家族の絆の証であり、私たちは小さな手を握り返しながら、連綿と受け継がれてきたこの子の歴史を、未来を支えているのだ。
 

 

こうして私たちのロゴは決まった。

いぶきデザイン室の皆さんが僕たちの思いをしっかりと受け止めて、素晴らしい心をロゴに吹き込んでくださった。  

そしてそのロゴには、この文言が載った。 

GIFU NICU
Save Baby and Family 

 

 

この記事を書いた人

岐阜県総合医療センターNICUロゴのお話 | いのちと生活を支える

寺澤大祐

てらざわ だいすけ
岐阜県総合医療センター/新生児内科医長、周産期(新生児)専門医・指導医。
日々赤ちゃんと戯れる仕事をしています。本当は赤ちゃんたちと、きゃっきゃうふふ、とやれたらいいのですが、僕の眼の前にいる赤ちゃんたちは、まだまだそうやって戯れられるような状況にはない子たちばかり。そんな中で日々、その赤ちゃんの幸せを願いながら、医療を提供しています。そんな現場からのお話をお伝えする予定です。

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