2023.01.18
子どもたちが教えてくれた家具の配達
- 執筆:
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平塚慶一
家具を買うときは皆さんどんなタイミングでしょうか。
一人暮らしを始めた時
結婚した時
家を建てたとき
新しい家族が増えた時
家具を買う瞬間は割と人生の節目になるようなタイミングで家具を新調されることも多いかと思います私は普段家具の販売を通じてそんな皆さんの生活の節目に出会うことが多く、一緒に新しい生活への期待とか不安とかを疑似体験させていただいたり、陰ながら応援させていただいています。
ライムズのスタッフもみんなそうだと思いますが、自社の家具を買っていただいた時ももちろんうれしいのですが、お客様それぞれの人生の節目に立ち会わせていただいている感覚がこの仕事のたまらなく楽しいところだと思っています。
今回このように文章にしてみようと思って、珍しく自分の記憶とか感情とかを少し振り返ってみて、最初に思い浮かんだことを記事にしてみようかなと思います。
私がお客様の人生の節目に初めて立ち会わせていただいた時のお話です。
当時私は19歳くらいで、東京近郊の大学生でした。
その時はまだ家具屋を仕事にしようとははっきり考えていませんでしたが、他になりたい仕事もないので、都内の家具店に頼み込んでアルバイトの配達員をさせてもらっていました。こちらから無理にお願いしたので、時給は600円で郊外から電車賃は自腹で1時間かけて電車を乗り継いでバイト先の家具店に通っていました。
配達の仕事も割と慣れてきたある日、世田谷区のある団地に学習机の配達がありました。来年小学校に入学する男の子の学習机です。
いつも通り作業に取り掛かり、男の子の部屋の中で段ボールから家具を出していたところ学習机のワゴンの天板が大きく割れていることに気が付きました。
男の子のお母さんにご報告をし、後日ワゴンだけ再配達させていただくことになりました。
決していいことではありませんが製品の不良はたまにあることで、その時の私も「まあ、しょうがないかな」ということで淡々と作業を続けようとしました。
ところが男の子は楽しみにしていたデスクがすべてそろわず、非常にがっかりしてわんわん泣いてしまいました。その光景を見て自分でも不思議なくらいに無力感と悔しさで感情があふれたことを覚えています。
それからちょうど一か月くらいして、別のお客様のお宅に学習机の配達がありました。
今度は小学校2年生の女の子の家です。
その子は非常に恥ずかしがり屋の子で学習机を組み立てている途中からずっとこちらのことを柱の陰に隠れながら見ていました。
そんな視線を感じながら「この子も学習机を楽しみにしてるんだろうな」と思って一生懸命組み立てをしました。
無事に組み立てが終わり玄関先でご挨拶をしていると、それまでずっと黙っていた女の子が、お母さんの足に隠れながら絞り出すような小さな声で「ありがとう」と言ってくれました。
私は必死になって笑顔を作って「ありがとうございます」と言って玄関の扉を閉めました。
その瞬間に涙があふれてきました。
始めは何の感情で泣いているかわかりませんでした。19歳の私には今まで体験したことのない感情の涙でした。そもそもそんなに泣くことも久々でした。
涙を流しながら自分でもびっくりしたことを強く覚えています。
それが家具を通じてお客様の人生と向き合うことのできた最初の出来事だったと思います。
家具の配達というのはお客様にとっても一大イベントですが、お届けする私たちも一緒に感情を共有し、「温かい気持ちのかたまり」のようなものをいただける活動だと思います。
家具販売に携わって15年以上たちましたが、いまだに楽しくお客様の家具をお届けさせていただいています。
その時の小学生の2人はもう大きくなったと思いますが、今でも感謝しています。
いぶきからのコメント
2003年に岐阜市で最初の知的障害者デイサービスセンター「コラボいぶき」(当時)のダイニングのあつらえを一緒に考えてくださったのが平塚家具さんでした。
2011年にパストラルいぶきが始まるときに家具選びを若いスタッフに任せたのですが、そのスタッフの相談係もお願いしました。「仲間の暮らしの質を支える居心地の良い空間のもつ力」を一緒に考え、肌感覚で伝えてくださるに違いないという信頼があってのことでした。
先代以来、LIMESの情熱とDNAを受け継いでおられる平塚慶一さん。日々感じておられることを綴っていただきます。