2022.11.03
「りすのほっぺ」の地図〜Interview.008
- 執筆:
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篠田花子いぶき福祉会
美味しいものと未来の夢を頬袋にたくさん詰めて
「りすのほっぺ」は今日もたくさんの笑顔を繋ぎます。
作っているのはジャムですが本当に味わって欲しいのは、
このジャムを生み出した仲間と、支援員と、生産者と、買い手の幸せな関係。
働いて楽しい、届けて気持ちがいい、もらって嬉しい、
みんなで一緒に、この美味しいジャムを作って
誰もが安心できる社会が、つながっていく実感を味わいたい。
それが「りすのほっぺ」の目指していることです。
りすのほっぺが生まれたのは2011年。
コツコツとグツグツと、果実を鍋で丁寧に煮込むようにジャム作りを十数年かけて洗練させてきた結果、今春、ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル2022で金賞・銀賞をとる快挙を達成。その知らせに、りすのほっぺに関わる全員が歓喜に沸きました。
ジャム作りに力を入れ始めた当初から、仲間と一緒に苦心して今の「りすのほっぺ」というブランドをいてきた澤井大輔さんと、一緒に現場を支える浅野裕美さん、そしてプロジェクトの仕掛け人である専務理事の北川雄史さんにりすのほっぺが描いてきた道、そして未来の夢を伺いました。
聴き手・文:篠田花子(ヒトノネ)
ダルメイン世界マーマレードアワード2022で「金賞」「銀賞」W受賞!
「りすのほっぺ」はいぶき福祉会の施設を利用する重度の障害のある作り手(いぶきでは仲間と呼んでいます)が、収穫から下処理、ラッピングまで丁寧に1点1点仕上げたジャムです。
この春、ダルメイン世界マーマレードアワード2022日本大会プロの部で、「りすのほっぺ」のジャムが金賞・銀賞を受賞しました。
全国各地の作り手の思いがこもった自慢のジャムが集まる大会で、プロの部は全393品の出品があり、金賞は37品、銀賞は91作品が受賞。大変栄誉ある賞です。
◉当日のレポートはこちらの記事で↓
捨てていた「梅」に価値を
北川:もともとジャムを作り始めたのは、草木染め(後にいぶきの仲間がつくる1点ものの手染めストールをブランディングしたのが百々染)を中部国際空港で販売できることになった折に常滑市の方とつながりができたのがきっかけでした。常滑焼の成型シリコン応用して招き猫のマドレーヌをつくることになり、マドレーヌに酒粕を入れると美味しいらしい、という話から常滑の老舗酒造・澤田酒造さんとご縁ができました。そこで梅酒に漬け込む梅を捨てているから、その梅でジャムを作ってはどうか?という話をいただいたのです。そうして仲間の仕事のひとつとしてジャム作りが始まりました。
実は始めた当時から、ジャム作りはいぶきの将来を担っていくという確信がありました。ジャムは季節によって果実の種類が変わり、作る難しさはあります。しかし、ジャムは小ロットで作りたいというOEMのニーズがある。例えば、農家さんが作ったトマトをジャムに加工して売りたい…と思ったときに大手の加工会社では量が足らずに断られるところを、いぶきならばご要望の分だけで作ることができます。また、ジャムは保存が効くし、頻繁に流通するだろうと予測できました。例えば、以前作っていた「いきなり団子」は餡子の管理が難しかったし、マドレーヌも長く保存できるものではありません。百々染のような布製品よりも食品の方がたくさんの人に手にとってもらいやすいというメリットもあります。
いぶきが作るオリジナル商品の中でも、ジャムは原料仕入れから販売まで、いろいろな方との関係性を作りやすいと考えたのです。百々染と同じように、コンセプトは一期一会。いただいた果実から作れる分だけ作って売り切るというスタイルで、丁寧な仕事ができる分だけ作っていくようにしました。
作り手や買い手の顔が見えると、仲間はやりがいを感じることができるし、作っていて楽しいですよね。仲間が楽しむためにとことんやろうよ、というのがいぶきのスタイルですから、「りすのほっぺ」を通して関係を生み出していくことに重点を置きました。
僕も一緒に、並んで仕事をしよう
澤井:僕がジャム作りに本格的に関わり始めたのは8年前。もちろんジャム作りなど趣味でやったこともなく、砂糖の区別もつかないほどで、僕は仲間から手順を教わりながらのスタートでした。その前はかりんとうを担当していたのですが、ノウハウが確立していたかりんとうに比べて、レシピ通りにやってもうまくいくとは限らないジャム。なんといっても原料が季節の果物で個体差があり、酸味もあって微妙な調整が難しい。そんな困難な商品を作るよりも、マニュアル化できるものだけ作るようにすれば仲間の給与を安定して稼ぐことができる…。そう思って、実は僕、ジャムを担当しはじめた頃に「ジャム作りはやめましょう」とレポートまで書いて提出したことがあるんです(笑)。当時からお世話になっているデザイナーの荒川真由美さんに「あの時の澤井くんは本当に怖い顔していたわよ」と今でも笑われるほど、ジャム作りは無理があると思っていました。それでも、ジャムは光る素材だし、追求したら楽しいという感覚も俄にありました。
そんな迷いを抱えながらジャムを作っていたとき、かりんとうを作っていたころのある出来事を思い出しました。
ある日、かりんとうを作っていた仲間が「ああ、明日もかりんとうだ」と呟いたんです。それを聞いたときにハッとしました。当時の僕らはOEM商品を作っていたのですが、作ることに一生懸命で「何のために?誰のために?」がすっかり抜けていたんです。そこで僕は「お茶の友ニュース」という季刊レポートを発行して、どこでどんな人が食べているのかを知ってもらえるように工夫しました。仲間の仕事を作るのも大事だけど、給与よりも大切にしないといけないものがあるんじゃないか?と気付かされた出来事だったんです。
その事を思い出したと同時に「僕も仲間と同じ土台で仕事しよう。一緒にジャムを作って、誰よりも僕がジャムに詳しくなろう」と決意しました。正直、道は険しいなと思っていたけれど、まずはやってみて考えようと思ったのです。そして何より背中を押してくれたのは、仲間の存在だったかもしれません。単純に、仲間と仕事することが楽しかったんです。
作る前後を大切に
澤井:2015年の知多半島にあるBLUE CHIP FARMさんとのジャム作りを皮切りに、生産者さんの元へ仲間が収穫へ行かせてもらったり、関牛乳さんのミルクジャムを作ることになったときにはOEM先の見学に行き、どの人たちのジャムを作るのか、仕事の目的を実感できる機会を設けることを増やしました。
また、2016年にはJAZZ奏者の粥川なつ紀さんに「りすのほっぺ」のアンバサダーになっていただき、JAM×JAZZというイベントをメディアコスモスで開催しました。もちろんイベントやバサーがあれば仲間と一緒に出掛けて販売もします。小さいお子さんが買いに来たときに、背丈に合うようにしゃがんでジャムを渡す仲間の姿があり、その場にいたみんなが嬉しそうで、そういう機会に出会うたびに僕もこの仕事をやっていて良かったと感じることができます。
僕たちは、ジャムを作って欲しいという依頼は一度も断ったことがありません。もらった仕事については誠意を持って返すようにしていて、それに応えてくれる仲間もいるし、それをきっかけに広がる新たな出会いを大事にしているからです。こうして、ジャムを作るだけでなく、繋がることを大切に「りすのほっぺ」というブランドを育ててきました。
みんなでもらった金賞のジャム
澤井:今回受賞したダルメイン世界マーマレードアワード、実は昨年も挑戦したんです。その経験から生半可な商品では入選しないことは分かっていたので、昨年未完成だったジャム上部の変色と酸味とゆるさの調整について研究を重ねました。特に変色については、空気を抜くための蓋の処理の作業が加わるため、仲間にも手間をかけることになります。それでも「これで良いものができるなら」と、手間を惜しまずみんなが頑張ってくれました。
今回金賞をいただいた金柑ジャムもそうですが、どのジャムも種やヘタを取ったり、皮を薄く切ったり、焦げないように混ぜながら火を入れたり、1点1点ラベルを貼るなど、とても細かな手作業が必要です。
ものすごく大変な作業だからこそ、このジャムが誰に届けられているのか、その先が見えることで頑張る気持ちも湧いてきます。それが仲間の生きがいにつながると思うと、私たちも楽しく仕事ができるんです。
ともに新しい価値を生み出す
浅野:食品を扱う仕事は法律なども変わり、年々厳しくなっていきます。大変なことは増えていきますが、それでも仲間が丹精込めて作った商品をたくさんの人に食べてもらって、喜んでもらう姿を仲間に見てもらえるところが嬉しくて。バザーがあると聞けばすぐにいきますし、売り上げがあがれば仲間の給料も増えて喜びも倍増します。お客様と会う場面が増えるとアイデアも湧きますし、新しい商品のアイデアがあれば試作する工程も楽しいです。
いぶきには敏腕なデザイナーが二人いるので、ラベルからオリジナルで形にしてブラッシュアップできます。
先日完成した「キャラメルマキニャート」というジャムも、澤井さんのアイデアで、ミルクジャムのレシピをアレンジして絶妙なとろみと硬さで仕上げた商品。早速、雑誌にも取り上げていただき、新たな話題の商品になってくれると期待しています。今後は、カフェとジャムを使ったお店を展開したり、ジャムを使ったかき氷屋さんをやったり…直接、仲間とお客様が出会える場作りも挑戦してみたいと思っています。
澤井:仲間の顔を見ていると、アイデアが止まらないし、やればやるほど景色が変わっていきます。「いぶきさんって何やってるの?」とよく言われますが、このネットワークがあるから僕らができることが広がっていくし、いろいろな人に支えてもらって一緒に新しい価値を生み出していくことを大切にしていきたいと思っています。
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