「対話し、協働できる社会」をつくる30周年記念事業を【北川コラム Vol.2】 | いのちと生活を支えるえんがわピープルの物語

「対話し、協働できる社会」をつくる30周年記念事業を【北川コラム Vol.2】

2024年7月に、社会福祉法人いぶき福祉会は30周年を迎えます。これを機に、25年前からいぶきを知る北川が、コラムをはじめてみようと思います。30周年を迎えるにあたってのおもいとは? つくりたい未来とは? 大切にしたい考え方とは? いろいろな角度から語っていきます。

第2回は、30周年にかけるおもいと、いぶきが大切にしている「幸せ」のこと、そして、30周年事業を通じて、地域や社会に伝えたい「協働」のあり方についてお話します。

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“これから”を描くために、30年を振り返る

2014年、いぶき福祉会が20周年の節目を迎えた際、それまでの歩みを冊子『法人二十周年記念誌 いぶきのあゆみ』にまとめました。この制作プロセスで気づいたことがありました。それは「記録を残す大切さ」でした。20年のあゆみを知ることで、これまでの方々がバトンをつなぎつづけてくださったからこそ、今のいぶきがあるのだと、より実感できるようになりました。

そして、いま、来年の30周年に向けて、ひとつのおもいがあります。それは、過去を懐かしむことに留まらず、「“これから”を描くために、30年のあゆみを振り返る」ということです。

ひと昔前の福祉には、「障害とはこういうこと」「幸せとはこういうあり方」と、ひとつの形にまとめようとする動きがありました。一方で、いぶきがこれまで取り組んできたことは、こうした動きとは真逆のことです。

それは、障害や幸せのあり方について、ひとつのイメージへと集約するのではありません。むしろ、障害や幸せについて、解釈の幅広さやグラデーションの豊かさを持つことを、大切にしてきました。

いぶきに集う仲間たちは、障害のあり方も、やりたいことも、できることも、本当にさまざまです。こうした多様なグラデーションの仲間たちが、誰一人として取り残されることなく社会参加できるように、活動をつくってきました。それが結果として、たとえば招き猫マドレーヌづくり畑仕事などの活動として、生まれました。

30周年事業では、共通のフレーズや統一のメッセージをかかげるつもりはありません。そうではなく、バラバラ(分散型)であることを大切にして積み重ねてきた、いぶきならではの取り組みを行って、さらにこの先の未来を描いていきたいと考えています。

幸せに“なる”ことを諦めない

もしかしたら、「いぶきはなぜ、多様性やグラデーションをそこまで尊重するのか」と思われる方も、いらっしゃるかもしれません。その背景には、「幸せに“なる”ことを諦めない」という、僕らが大切にしてきた気持ちがあります。

今の社会では、我慢したり、折り合いをつけないといけなかったりする場面も少なくありません。最近は、困って助けを求めても、「俺たちも大変なんだ」「こっちも頑張っているのだから、お前も頑張れ」と言われ、突き返されてしまうことがあります。こうした状態は、何も障害を持つ人に限ったことではありません。誰しも我慢したり、折り合いをつけたりしながら、この社会を生きているのではないでしょうか。

一方、いぶきでは、「大変な時は大変だと言っていいし、こうなりたい、これをやりたいと願うのは、決してわがままではない」というスタンスで、仲間たちと活動しています。「幸せになることを諦めたくない」という気持ちは、僕たち人間がもつ、ごく自然な願いですよね。ですから、幸せを諦めずに生きてもいいのだということを、いぶきの活動を通じて、もっと知っていただきたいですね。

生きづらさを抱えている人たちが、つらいままで終わらないために、つらさも含めて彼らと向き合うこと。そして、一人ひとりが幸せだと感じられるよう、エンパワリングしていくこと。さらにそうしたいぶきの活動を社会にも共有していくこと。これらは、社会福祉の枠を超えて「対話し、協働できる社会」をつくるために、これからのいぶきが担う役割だと考えています。

仲間と職員による協働で形となった「30周年記念ロゴ」

30周年に向けて、すでに複数のプロジェクトが動いています。そのひとつが「30周年記念ロゴ制作」です。

制作にあたり、いぶきの仲間や職員から公募をしたところ、119点ものデザインが集まりました。すべてのデザインを施設内で展示し、みんなでコメントつきで投票を行ったんです。

集まったデザインは、文字あり、カラフルなイラストあり、ちぎり絵ありと、バリエーションも豊か。まるで、いぶきの多様性を象徴するような風景が広がりました。
結局、投票結果でよいコメントが多く集まった4つの作品を組み合わせて、ロゴをつくりました。職員がさっと制作してしまうのではなく、障害のある仲間たちにも参加してもらって、共に進める制作プロセスは、いぶきらしい姿です。こうしたいぶきならではの協働型アプローチを社会へ伝えていきたいと考え、プレスリリースの配信も行いました。

◆30周年ロゴ制作に関するプレスリリース:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000118433.html 

   

小さなプロジェクトの集合態が “30周年プロジェクト”

実はどうしても実現したいプロジェクトがあるんです。ネタばれになりますが(笑)、いぶきの職員、役員、仲間をあわせた約400名全員に、それぞれ異なるメッセージの感謝状を渡そう、という企画です。

いぶきには、美濃和紙をつかった「ポケのーと」という製品をつくっているグループがあります。重度の障害のある仲間たちがひとつひとつ丁寧に紙を漉いて作ります。全てが手作業なので、1日に1冊、週に3冊しか作ることができないんです。でも、とてもすてきなデザインだと好評で、ノベルティにされる企業さんもいらっしゃるような人気アイテムです。そんな彼らに、感謝状の台紙を作って欲しいなあと思うのですが、400枚というのはあまりに多すぎます。いい方法がないか、頭をひねることにします。

メッセージについても、なんらか全員がお互いに関われるように工夫できたらと、アイディアを膨らませています。こうしたプロジェクトも、多様な仲間たちがいるからこそできることです。

もうひとつ。30周年を迎える2024年7月には、「みんなの森 ぎふメディアコスモス」にあるギャラリーでの展示を計画しています。

過去30年のあいだに、様々な方々とコミュニケーションしたくて、よりよい関係をつくりたくて制作してきた、ニュースレターやポスター、冊子や写真…。本当にたくさんの思い入れある制作物があるんです。これらは、これまでいぶきと関わってくださった方々が積み重ねてきた活動そのものです。ギャラリーに集めて、30年の時間や空間ごと体感できるような展示をやりたいですね。

福祉の枠を超え、新しいアクターとの協働による30周年事業を

ところで、僕はこの7月で54歳になりました。僕がいぶきにかかわれるのもあと10〜15年ほどでしょうか。20年もすれば、この世代の職員はいなくなって、若い職員たちが活躍しているでしょう。

そうなると、若い職員にとっては、協働しながら一緒に未来をつくる新しいアクターが必要になります。そこで僕が注目しているのは、中高生などの子どもたちです。

中高生というと、いろいろな生きづらさを抱えがちな時期です。いぶきの活動を通して、多様な生き方を認められた仲間たちの生活を知ってほしいと思っています。

生きづらさの種類は異なるけれど、中高生のような今までにないアクターたちと協働しながら、誰もが安心できる場づくりをしていくこと。こうした取り組みを続けることは、社会福祉にとどまらず、ゆくゆくは、地域や社会全体の人間的な豊かさにもつながっていくと考えています。


第3話へつづく…

*仲間とは いぶき福祉会では利用者の方々を「仲間」と呼んでいます。詳しくは【北川コラムVol.1】へ。

この記事を書いた人

「対話し、協働できる社会」をつくる30周年記念事業を【北川コラム Vol.2】 | いのちと生活を支える

北川雄史

きたがわ ゆうじ
社会福祉法人いぶき福祉会 法人本部 専務理事
協働責任者/社会福祉士/インターミディエイター

1969年京都市生まれ。高校までを神戸ですごし、1997年に社会福祉法人いぶき福祉会に入職。それ以来岐阜で暮らしています。
「ものづくり(作って売る)」から「関係づくりの先に仕事と収益がうまれる」ことへの転換とそのモデルづくりに取り組んでいます。
障害のある人との日々の営みを、新しい価値観にもとづく協働社会の幸せのひとつの形として物語り、ソーシャル・キャピタルの醸成と誰もが支え合いながら人間らしく生きられるケアリング・ソサエティの実現を目指しています。

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