2023.04.21
Present
- 執筆:
-
川上宏二
ある日突然スタッフたちに不愛想に渡されたキッチンペーパーに包まれた「もの」
そのキッチンペーパーには鉛筆で生協のロゴが描かれていた。
慎重に恐る恐る開いてみると、ほんわり焼かれたクッキーがあった。
彼はある所で働いていた。しばらくして心が折れ
家から出られなくなり、
布団からも抜け出せなくなった。
不安になった家族が訪ねてきた。
それからそれなりの年月と様々なことがあり、時より気が向けば一人で通ってくる。
来るのはいつも夕方4時 それから3時間、自身で決めたスケジュールで過ごし
夜7時にサッサっと帰っていく。
彼と私たちが知り合ってから何年もの時が過ぎた。
多少だが互いの思いを知り合えた気もするし、全く分からない気もする。
互いのメッセージは届いているのか、一方通行なのかも不明
ただ、その時間と空間を互いに尊重した。
ある時から常に彼の口から奏でられる独自のリズム音に時折挟み込まれる心根を聞けるようになった。
「幼い時から面倒見てもらっている祖母への気持ち」
「家から出て独立したい」
でも、傍らでうなずくしかなかった。
そんな時の突然の「Present」
「食べられないよ。宝物じゃん」
泣いて座り込むスタッフ。
前日の夜中から自ら準備して作ったと家族から聞いた。
何を与えるでもなく、何をしてもらうのでもなく
互いに思いながら過ごすこと。
「Present」とは「存在している」という意味。
いぶきからのコメント
物語の力を感じます。
私たちの役割は、多様な生きづらさを抱えている人を点で支えるだけではなく、地域でともに暮らす人と人として関係を育みながら、時にその人の過去・いま・未来を丁寧にたどりながら時には専門性をもって支えエンパワリングしていく。そんな点から線への転換をはかりながら、多様な人たちで寛容な社会を創り続けていくのが福祉なんだと思うのです。点と線と面。そこにうまれるたくさんの物語をもっともっと丁寧に伝えていきたいと思います。川上さん、ありがとうございます。