いぶき福祉会えんがわピープルの物語

できない理由より、実現にむけて行動するチームが、仲間や地域の可能性をひらく ──いぶきのグッド・ストーリー!⑥小田由生 編 <後半>

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いぶきからのコメント

こんにちは、いぶき福祉会の和田です。協働責任者として、もっといぶきに対話と協働がうまれるよう、日々いろいろと取りくんでいます。
そこで、えんがわスケッチで、対談コラムをスタートしました。
ことの発端は社内での対話の会でした。いぶきの現場には、思わず笑顔になってしまうような素敵なストーリーがたくさんあるね。でも、忙しさに埋もれてしまってね、という、ある職員の発言をもとに、「Good Story Award(グッド・ストーリー賞)」という取り組みが生まれました。みんなで現場のストーリーを集める試みです。
ただ、せっかく集まったストーリーを、社内だけに留めておくことはもったいない。ぜひ多くの方々に知っていただき、障害福祉の現場への理解がもっと広まれば…、との願いから、えんがわスケッチでコラムを始めることになりました。
毎回、社内からゲストを招いてダイアログをします。いぶきの現場の今、仕事に取り組むスタッフたちの情熱やかっこよさ、いぶきらしさが、皆さんに伝わるといいな。そんな思いで、綴ります。
第6回目は、小田由生さんと和田のダイアログ<後半>です。

黄色マーカーでしか描けなかった彼の、新しい一面が見いだせた

和田: 前半でもいろいろと聞かせていただきましたが、もうひとつぐらい、現場のよいエピソードを聞かせてもらえませんか?

小田: そうですね、では、創作活動での仲間の姿について。自閉傾向のあるMさんは、以前は黄色いマーカーだけを使って紙に線を引く描き方でした。それが、継続して取り組んできたことで、最近では、5色ぐらいのマーカーを使って描けるようになったんですね。それから、塗り絵のような文字や絵を準備すると枠の中に描けるようになっていって、どんどんできることが広がってきました。

和田: Mさんの可能性が広がっていっていますね。

小田: ある時、創作活動で紅葉や落ち葉を表現するのに、絵の具を使うことになり、Mさんにもお誘いしてみたんです。そしたら、筆をとって描くことができたんです。さらに、毎年いぶき福祉会でも参加している“こよみのよぶね”の活動でも素敵な姿を見ることができました。

和田: もともとは日比野克彦さんが始めた活動ですよね。12月の冬至の日に、数字の灯篭を屋根に取り付けた屋形船を長良川に浮かべて一年の締めくくりを行う行事ですね。高さ4mの灯篭を、各団体で分担してつくっていて、いぶきも参加していますね。去年は、30周年だから「3」をつくりましたね。
こよみのよぶね

小田: 今年も「3」をつくりました。竹組みの灯籠に貼り付ける和紙は1枚ヨコ1メートル、タテ80センチぐらいのサイズ。その色塗りに参加したのですが、Mさんは筆を取って、床でワーっと大きく描くことができたんです。ああ、彼はこういうことが好きなのかなと、新たな仲間の好きなことに気が付くことができて、本当にうれしかったんです。

和田: それはすごいですね。こうやって、仲間ができることを少しずつ広げていくこと、新しい一面をみつけられるようにサポートすることが、僕らの仕事の醍醐味のひとつですよね。

小田: 今回はそれだけに終わらず、さらに新しい一面を見せてくれたんです。また別の創作時間のことです。創作の時間だと分かると、自分の椅子に座り、絵の具と紙が準備されるのを待っていてくれて、準備ができると、さっと取り組まれたんですよね。でも手が汚れることが嫌いなので、汚れてしまったときに、手を洗いに行きたいというサインをがあったので、一緒に洗いに行きました。もう汚れるのが嫌だから絵の具は終わりにするかなと思ったら、なんとまた席に戻って絵の具で描き始めたんです。彼はやっぱり描くことが好きなんだなと再認識できました。今日Mさんがこうだったんだよねと、いろんな人に言ってまわって、みんなで喜び合いました。今も思い出すと泣けてきちゃう(笑)。

和田: 日々、いろいろな発見があるんじゃないかと思っていたけれども、嬉しい喜びあいがありますね。僕も現場をやっていて、仲間と意気投合してできたときは嬉しかったなあ。僕はまだ入社したばかりだったから後輩で、仲間のほうが先輩なものだから、冗談交じりで話ができるようになって。仕事ができるようになっていくのが楽しくて。現場は様々な発見だったりがありますよね。

小田: あります!こういう仕事ならではで、なかなか他の仕事では経験できないことだと思います。

いぶき福祉会

ふたたび染めあげるワークショップを企画して、皆さんとつながりたい

和田: 日々発見する中で、もっとこうやっていきたいなということがありますか?

小田: 私は、地域の人との関わりを増やしていきたいと思っています。ずっと昔は、特別支援学級に商品をお届けしに行ったり、保育園や小学校に仲間が紙芝居を読みにいったりする活動がありました。今は、イベントに地域の方たちが参加してくださったり、ボランティアに来てくださったりすることはありますが、イベントを担当していて、もっと地域の人とつながれないかなと思っています。

和田: コロナの影響もあり、地域の人との関わりも減ってしまったのですよね。再びなにか地域とつながる新しいアイディアがありますか。

小田: ひとつ考えているのは、草木染はどうしても使っていくと色落ちしてしまうんですよね。それを染め直しませんか、ということをやってみたいんです。それをきっかけに、いぶきにもう一度足を運んでいただくとか、依頼を受けてもう一度染め直すとか。再びつながれるようにしたいなと。できれば染める楽しみを体験してもらえるとよいので、ワークショップを開いて、いぶきに足を運んでいただいて、私たちを知ってもらうようにしたいですね。

和田: これはいいですね。実は、私の知人で、色落ちしているので、また染めたいという人がいるんですよ。また染めることってできるんですかと聞かれて、できますよーと話をしてしまいましたよ(笑)。できたら一緒にやりたいんですと言ってくださったので、一応、いつかのために予約を受けているんですよね。いぶきのことを大好きでいてくださっている方の一人です。

小田: 商品を一度買って終わりではなく、またつながっていけるといいなと思っているんです。

和田: 色落ちしてくると商品がダメになっちゃったんじゃないかと思わずに、もう一度染めるプロセスがふめるのは、また関係をふかめられるという点でも、すごくいいアイディアですね。素敵ですね。

小田: これも一人ではできないので、仲間や職員チームとでつくりあげていかないといけないなと思います。

百々染

サービス管理責任者として、上に立つのではなく、目線を合わせてみんなでつくりあげるチームを

和田: チームという話がでましたが、小田さんは今年の10月からサービス管理責任者(以後、サビ管)として、チームをまとめる役割になりましたよね。抱負はありますか?

小田: 実は自分はサービス管理責任者の役割を担える人ではないと思っていたのです。ですが、チームの上にたつのではなく、目線を合わせて対話し、みんなで一緒に作り上げられるチームであろうと思っています。チーム内でも、私がサビ管になってからも、小田さん大丈夫?これやろうか?と、声をかけていただけて、一緒になって、じゃあ次はこうしてみようかと話し合えるので、とてもいいチームだと思っています。これは大事にしていきたくて、誰もが意見を言いやすくて、それはできないよ、ではなく、こうやったらできるんじゃない?と、実現するために、どうしたらできるかを考えられるチームを目指していきたいと思っています。

和田: おお、それはいいサビ管さんじゃないですか!! 上に立つのではなく、小田さんがあいだをつないでいくチームは、まさにいぶきが目指しているチーム像ですね。

小田: アイディアを出すのが得意な人もいれば、現場で動くのが得意な人もいます。それぞれの得意なことを活かして、補完しながらやっていけるといいですよね。

和田: 小田さんも、サビ管として当然とりまとめる場面もありますが、小田さん自身も補完されながらみんなと一緒に対話を通じて協働する関係、それが素敵なことです。そういうチームからは、クリエイティブに新しい発想が生まれると思いますよ。

小田: 先日、近くのゲンキー(ドラッグストア)に買い物に行ったんですよね。その時に、先ほどお話した、自閉傾向のあるMさんが、ディズニー・プリンセスとかプリキュアとか、そういう可愛いのが好きなんですが、プリンセスの封筒がどうしても欲しいと言って。レジに持っていくので、お金がないから買えないよ、と伝えてもあきらめず、最終的にはそれを持ったまま出口まで行っちゃったんですね。必死で止めて、話をしたという出来事がありました。そんなことがあった場合、もう買い物には行かない方がいいねと、なりがちじゃないですか。でも、チーム内では、そういう話は一切出なくて、今度は1対1で対応できるように買い物に行こうねとか、今日はこれを買うよと事前にわかりやすく写真で伝えてから行こうねとか。次にどうしたらいいかを考えてくれるチームなんです。

和田: いいチームですね。Mさんの行動を狭めてしまうと、余計に彼の生活のしにくさを作ってしまいますよね。そうではなくて、彼がどうやったら生活しやすくなるかを考えるチーム。やらない理由じゃなくて、やれることを考えるチームっていうのは、いかにもいぶきらしいですよね。仲間思いで、願いをかなえようとする職員が多い職場だと思いますね。

和田: ところで小田さんは、こういうクリエイティブなチームとともに、どんないぶきの未来を描いていきたいですか?

小田: 普段はあまり大きなことを考えないのですが…。今もいぶきは、地域で、障害のある人や職員のことを知ってもらったり、逆に地域の人たちと協働することで、地域の人たちのことを知ることができます。知らないことで怖さが生まれてしまうので、知ることって大事なことだと思っているんですよね。その延長に、障害のある人にとって豊かで住みやすいだけじゃなく、子供や高齢者にとっても住みやすい街づくりができるんじゃないかと思っています。地域まるごとっていうか。

和田: 小田さんが、今考えていらっしゃることを実践していくと、それが未来をつくっていくのだと感じます。目線を合わせて、お互いに一緒になってつくりあげられるチームができれば、その先に、描いていらっしゃる社会が実現すると思うし、そうしていきたいですね。

いぶき福祉会

子育てと仕事のあいまで仲間を思うということ:子育てが支援に役立った

和田: 小田さんは、いぶきの仕事がありながら、帰宅すると家庭があって、子育てがあるわけですよね。両立をしていくなかでの、大変さとか、よさというものがありますか?

小田: 難しさでいえば、やはり仕事の始まりと終わりの時間が決まっていることですね。朝ですと、子どもを送ってからでないと出勤できない。帰りも子どもを迎えに行かないといけないので、仕事を終わらせないといけない。まだやりたいことがあるのに、限られた時間の中で働くところがすごくストレスを感じます。

和田: そうですよね。仕事と家庭と両立していくのには、大変な苦労がありますよね。

小田: でもその中で自分がどう動くか、チーム・メンバーとどう話すか、というところが課題です。限られた時間の中でも、もっとできることはあると思うので、考えながらやっているところです。仲間が帰ってからでないと、仲間のことをゆっくり話すことができないんですよね。でも送迎に行っていたり、記録を書いていたりすると、時間は限られてしまうですよね。

和田: また家庭に戻れば、頭を切り替えないといけないですしね。

小田: そうですね。でも子どもを寝かしつけてから、仲間のことを考えたりします。仕事と家庭とでは、時間は分かれていますが、でもやはり仲間のことは常に頭の中にはあるんですよ。家庭を大事にしつつ、子どもへの時間も限られているので、その中でいかに愛情を注ぐか、ですね。

和田: 僕も子育ての頃を思い出します。朝、保育園に送りに行って、なかなか車を降りてくれないんですよね。もうはやく降りてくれ、頼むから、と思うんですけれど(笑)

小田: 子育てしていてよかったなって思うこともありまして。子どもって、眠かったり、疲れていたり、自分の思う通りに行かない時に怒ったりしますよね。思いが伝わらないと怒れちゃう。仲間を子どもに見ているわけではないんですが、仲間にもそういうところがあるなと思って。

和田: なるほどね。仲間も、寝不足で疲れていたり、眠たかったりすると、感情があらわになったりしますものね。

小田: そういうときに、今ちょっと疲れているんだなとか、眠たいんだなっていう理解ができるので、感情的にならないというか、理解してあげられるんです。一般的には、おとな同士だと疲れや眠さがあってもあまり感情を出さないじゃないですか。子どもを見ていて、そういうこともあるんだなと知ることができました。それが、仲間の支援や関わり方、向き合い方として学びになっています。

和田: 子育てで得た経験が現場の中でも活かされているんですね。もちろん、最近は女性だからということではなく、男性も子育てに参加する風潮ですから、育児中の方はみんな同じ状況ですよね。

小田: お互いに助け合いながら、いいチームがつくれるといいなと思います。

和田: 今日のダイアログはいかがでしたか。

小田: こうして現場の様子をお話する機会が今までなかったので、今日は新鮮でした。

和田: 小田さんから、仲間への真摯な姿勢を感じるいいエピソードをたくさんお聞きできました。こんなふうに、多分、現場の中にはまだまだたくさんのグッド・ストーリーがあるんじゃないかと思っていまして。そうしたストーリーを、いぶきの財産にしていきたいなと思うんですよね。ありがとうございました。

小田: ぜひまた聞いてください!

和田: また対話しましょう。

いぶき福祉会 和田さん、小田さん

◆関連情報
いぶき福祉会の百々染ウェブサイト http://momozome.jp/

いぶきのグッド・ストーリー! 

竹腰龍太 編  前半:仲間を大事に、自ら考え、柔軟に支援できる現場をつくる
竹腰龍太 編  後半:多様性が許容され、障害福祉の理解がもっと拡がる社会をつくる
藤井美和 編  前半:障害の重い仲間の「暮らし」を支える楽しさと大切さ
藤井美和 編  後半:助けてもらうだけではない、貢献感覚を持てる社会を
小田由生 編:音楽という共通の話題を媒介に、障害のある仲間とよい関係がはじまった 
小田由生 編:できない理由より、実現にむけて行動するチームが、仲間や地域の可能性をひらく(現在の記事)

 

この記事を書いた人

いぶき福祉会 和田善行

和田善行

わだ よしゆき
社会福祉法人いぶき福祉会 法人本部 事務長
協働責任者/社会福祉士/インターミディエイター

大学時代には、筑波大学で数学を専攻すると同時に、ボランティア・サークルを新設。障害のある方々の生活課題にまなざしを向けて、プロアクティブに活動していました。卒業後も活動を継続しながら、神奈川県丹沢主脈の山頂にある山小屋にて小屋番を経験。その後、高齢福祉の分野を経て、再び障害福祉に立ち戻るため、岐阜に移住し、社会福祉法人いぶき福祉会に所属。現在、協働責任者として、団体内外との協働を促進し、クリエイティブ・ワークチームの形成に取り組んでいます。さらに、人間回復と再生につとめながら、“競争のない、多様性が許容される社会”の実現を目指しています。

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