誰もひとりでは生きていけない 親なき後をつなぐバトン 〜 Interview.002 | いのちと生活を支えるえんがわピープルの物語

誰もひとりでは生きていけない 親なき後をつなぐバトン 〜 Interview.002

インタビュー第2回目は、いぶき保護者会の会長 大野秀子さん(71歳)です。
大野さんの次男 裕輝さん(40歳)は、知的障害と身体障害があります。養護学校(今の特別支援学校)の高等部を出たあと、いぶきに入所しました。今はいぶきの新しくできたグループホーム パストラルで生活しています。
大野さんは今年になって1度エンディングノートを綴っています。裕輝さんの1日の生活スタイル、気をつけておいてほしいこと…などを記録し、職員と話し合う機会を設けて思いを伝えました。今回のインタビューでは、親なき後を思う親の想いとともに、それを考えること、伝えることの難しさを親本人の言葉で語ってもらいます。

 

聴き手・文:篠田花子(ヒトノネ)

 

言葉にすると難しい。
だけど、わかっておいて欲しいことがある

子どもが犠牲になるよりは私が…

いぶきの親の会では毎年2回ずつ懇親会を行ってきました。このところコロナのため開催できませんが、親の会でよく話題になるのが「親なき後の問題」です。しかもここ数年で息子の周りにも子どもを残して亡くなっていく方が何人かいて、周りのお母さんからは「自分の病気以上に子どもが心配だから入院はやめておく」という話も聞きます。子を案じるばかりに自分が犠牲になるというのが親の実情です。自分が歳をとってくるとやはり目を背けられない悩みで、私も数年前から成年後見人のことなどを勉強してきたところでした。実は私も昨年足を骨折してしまって、その時はグループホームのパストラルにお世話になれたのでなんとかなったのですが、毎日息子が家にいたら世話ができない状態でした。

親しか分からない子のしぐさ

いぶきから手渡されたエンディングノートはいくつかの項目に分かれていて、普段の生活スタイルや通っている病院や施設、配慮が必要なこと、支援者に伝えたいことなどひとつずつ整理して書けるようになっています。 “お墓をどうするか”なんてことまで書く欄があるんですよ。『母と同じ墓に入れてください』と書きましたが(笑)。たしかに言われてみれば、“こういうことまで伝えておかないとね”と分かるのですが、書き始めたら書いておきたいことが次々と出てきて、言葉に詰まってしまいます。
たとえば、息子は言葉で自分の思いを伝えることができなくて、じっと我慢するタイプ。「顔が硬っているときには、こういう気持ちになっているはずだから…」「朝起きたときにはこういう習慣があるから、気持ちを尋ねてあげてほしい」「質問は2択で尋ねてあげると答えやすい」と、親の私ならばちょっとしたしぐさや表情で分かることも、周りの方にわかってもらうにはどう伝えたらいいかな?と悩みながら書きました。40年以上積み重ねてきた親子の阿吽の呼吸や経験値があるから、それをどんな職員さんにも伝わるように記すのはとても難しいことです。それに、その時々に伝えたくなることも変わります。急に寒くなった今朝も施設にいったら本人が薄手のジャンパーを着ていたので、「帰りはこの厚手の服を着せてあげてね」と職員さんに渡してきました。100%周りの方にお願いするわけにもいかないですが、本人は暑いとか寒いって訴えられないので、周りにいる方に配慮してもらうしかありません。私が居なくなったら、誰がこの子に厚手の服を渡してあげられるんだろう、と思うと、伝えておかなきゃなって思うことは数限りなくあるのです。

 

変わっていくし、終わりがないこと

親として一番の願いは、息子が穏やかな環境で安心して笑顔でいられること、いつもと変わらない生活を送っていけることです。言葉で表現できない息子は、安心していると笑顔がでるし、不安や緊張があると表情が硬って、分かりやすいんですね。その様子をみてもらって、体と心の両面に気を配っていただきたいという願いがあります。
エンディングノートには先ほどのジャンパーの事例のような細かいことまで書き綴れないので、私の気持ちや配慮してほしいことの方針を記したうえで、やはり支援者の方と一緒に話し合い、言葉の意味を噛み砕いていくプロセスが必要だと思います。たとえば本人が命に関わる手術をしないといけなくなったときの意思決定はどうするのか、とか。我が家は長男に託してありますが、もし延命治療することがあればなるべく苦しい思いをしない方法を考えてほしい。そういう私の気持ちを、後を任せる家族や支援者にも伝えておかなければ、とこのエンディングノートを書いてみて明確になりました。それに、息子はこれから先もまだ生活環境や心身の変化もでてくるでしょうから、これから先もずっと、ノートは更新してかないといけないだろうなと思います。エンディングノートは、親としていつかは対峙する問題に、ちゃんと向き合うきっかけをくれるものだと思っています。

語り手プロフィール|大野秀子さん

岐阜市在住。保護者会の会長15年目。いぶきの法人化前から「いぶき福祉会設立準備会」に参加し、親としていぶきの開所に携わる。いぶきをつくり、支えてきた。

この記事を書いた人

誰もひとりでは生きていけない 親なき後をつなぐバトン 〜 Interview.002 | いのちと生活を支える

篠田花子

しのだ はなこ
一般社団法人ヒトノネ代表理事。
探究型学童保育ヒトノネと放課後等デイサービスみちな、不登校支援Imaruを運営。ときどきライター。岐阜市在住、3児の母。趣味は音楽鑑賞、いい建築めぐり、畑、美味しいものとお酒。
ヒトノネのHP https://hitonone.com/

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