2023.09.04
white
- 執筆:
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川上宏二
今、彼女は絵を描くことに一日中没頭している。
彼女しか表現できない唯一無二の表現世界だ。
彼女は「織り」が上手な方として卒業後、通い始めた。
確かに丁寧かつ鮮やかな色使いで織りをした。
しかし、その姿に「創る喜び」は感じ取れなかった。
どちらかというと「作らなくてはいけない」という気持ちに囚われているように思えた。
半年が経ったころ頃、家族から毎日帰ってくると、ノートに絵を描いていますというお話を伺った。
そのノートを見せていただくと、毎日1ページ、同じ形がくりかえし描いてあり、その形は毎日変わっていた。
この毎日の繰り返しの営みが心に引っかかっていた。
ある日、「絵を描いてみますか」と彼女に提案すると、小躍りしながら「はい、描きます」元気な返事が返ってきた。
紙と100色を超えるカラーペンをお渡しすると、紙いっぱいに大小の丸を描き始めた。
すべての丸が大きさも色も違うそれはそれは素敵な世界だった。
次第にその紙は大きくなり、パネルになった。描く形も□、△と変化していった。
しかし、残念なことにカラーペンは色褪が早かった。
ペンから絵具に替えてしばらくは絵を描いていたがある時からピタリと描かなくなった。
彼女は、ミシン、菓子箱の組立など自ら選んだ仕事を丁寧にやった。
上達していくことが誇らしげであった。
仲間やスタッフにとって、頼もしく、頼りになる存在となった。
1年程たったある日の昼休み、彼女が「白、白、白」と言いながら絵具の置いてある棚を探しているのを偶然スタッフが見かけた。
「白をさがしているの?」
「白、はい」
「白がないですね。今度白買ってくるね」
白色の絵具が届き、彼女に伝えると 「白」と言いながら飛び跳ねた。
自ら紙と絵具を準備して、赤の絵具にたっぷりの白絵具混ぜ、マゼンダ色を作り、四角を描いた。
それから、彼女は毎日描いている。
ご寄付いただいた何百色という絵の具に、必ず白を混ぜて彼女しかできないオリジナルのパステル色を作って...。
時より横にいるスタッフに「きれいな色」と自分で配合したパステル色を見せる。
「ほんときれい」とスタッフが答えると、笑顔でまた「かたち」を描く。
今となっては途中で白の絵具がなくなったから、描くのをやめたのか。
きれいなパステル色を作りたくなったのかはわからない。
でも、どうしても「white」が必要だったのだ。
彼女が彼女の世界を表現するために。

いぶきからのコメント
あたたかいです。
誰の心の中にもきっとあるはずの彩りを、
その人自身が心のままに表現していく瞬間(とき)を、
丁寧に丁寧に一緒に重ねていける幸せを、お裾分けしていただいている気分です。