いぶき福祉会のグループホームえんがわピープルの物語

障害の重い仲間の「暮らし」を支える楽しさと大切さ ──いぶきのグッド・ストーリー!③ 藤井美和 編 <前半>

執筆:

いぶきからのコメント

こんにちは、いぶき福祉会の和田です。協働責任者として、もっといぶきに対話と協働がうまれるよう、日々いろいろと取りくんでいます。
そこで、えんがわスケッチで、対談コラムをスタートしました。
ことの発端は2023年。社内で、「Good Story Award(グッド・ストーリー賞)」という取り組みをはじめました。みんなで現場のストーリーを集める試みです。いぶきの現場には、思わず笑顔になってしまうような素敵なストーリーがたくさんあるね。でも、忙しさに埋もれてしまってね、という、ある職員の発言をもとに生まれたものでした。
ただ、せっかく集まったストーリーを、社内だけに留めておくことはもったいない。ぜひ多くの方々に知っていただき、障害福祉の現場への理解が、もっと広まれば…、との願いから、えんがわスケッチでコラムを始めることになりました。
毎回、法人内からゲストを招いてダイアログをします。いぶきの現場の今、仕事に取り組むスタッフたちの情熱やかっこよさ、いぶきらしさが、皆さんに伝わるといいな。そんな思いで、綴ります。

第3回目は、藤井美和さんと和田のダイアログ<前半>です。

グループホームの日常から:仲間の提案を形にした誕生日プレゼント

和田: 藤井さんとぜひお話ししたかったんですよ。現場では日頃、いろいろとすてきなエピソードがあるんじゃないかと思います。

藤井: そうですね…。私はいまグループホームを担当しているのですが、グループホームに暮らす仲間たちのお誕生日にまつわるよいエピソードがあります。誕生日を単純に祝うなら、ケーキを買って食べるなどですが、最近、工夫をこらした誕生日の祝い方が生まれたんですよ。

和田: おお、どんな誕生日になっているんですか?

藤井: ある仲間が、自分の好きなキャラクターなどを印刷して切り抜いて、本のようなものを作ることにハマっているんです。その仲間の提案で、お誕生日を迎えた仲間に、それを作ってあげたいと。

和田: すごくいいアイディアを出してくれましたね。

藤井: そうなんです。ですが、自分が好きなキャラクターの本を作ってあげたいというんですね(笑)。たぶん、誕生日を迎える人にとっては、自分の好きなキャラクターではないものをもらっても、嬉しいかどうか。

和田: 自分の好きなキャラクターでつくりたいわけですか。それは確かにもらった方は微妙ですね。

藤井: ですよね? そこで、職員が考えて、お誕生日を迎える人の好きなものを探って、それらを切り貼りしてプレゼントしたらどうかと提案したんですね。それ以来、誕生日ごとに、一人ひとりへプレゼントを作ってくれています。もうすでに1人目にはお渡しして、お誕生日の方が好きな食べ物やキャラクターなどをちりばめてコラージュして。

和田: それはすてきだなぁ。きっと制作者は I さんですよね。

藤井: はい、それまでは自分だけで楽しんでいたものを、誰かのために何かをしてあげることとして提案したことが、まずすごいことです。さらに、彼自身の思いとしては、自分の好きなものをプレゼントしたかったのですが、職員が、そこをうまく新しい提案に変えて、喜ばれるプレゼントにしていったことが、いいプロセスだったと思います。

和田: 仲間同士の関係づくりの一助になっているし、仲間と職員とが、アイディアを出し合いながら、連携して作ったところがいいですね。

藤井: ちょうど最初に誕生日を迎えた仲間が、新しくグループホームに入ったばかりの方だったんですね。I さんも、他の皆さんも、新しい仲間のことを知る機会になりました。そのなかに、グループホームで生活しているいい表情の写真を貼ったんですよ。自宅に持って帰ってもらったので、お父さんにも見てもらえたんじゃないかな。ホームに子どもを入れたばかりのお父さんが、きっと喜んでくださったと思います。

和田: こうやって誕生日を祝うこと自体が、温かい家の中で、同じ屋根の下で生活をしているという感じがして、いぶきのグループホームならではのよいところですよね。

藤井: 一緒に祝う人がそばにいるのは、やっぱり雰囲気としてはいいですね。次の誕生日は誰かなと、みんなが楽しみにしていることのひとつになっています。

和田: このコラムを読まれている方の中には、グループホームをよくご存じない方もいらっしゃるかもしれないのですが、グループホームでは、そんなふうにお誕生日会などは頻繁にやっているのですか?

藤井: グループホームに暮らす仲間も、昼間は仕事に通っているので、ホームには夜しかいないんですね。人によっては、土日には実家に帰る人たちもいます。なので、いつもパーティーばかりやっているわけじゃないですよ(笑)

和田: ですよね、暮らす家ですからね。

藤井: ただ、イベントではないのですが、夜にしかできないことで楽しむことはあります。例えば、パストラル(いぶきのグループホームの名称)は田舎にあるので、ホタルを見にいくこともありました。

和田: ホタルがいるんですよね。夜に家にいるからこその、季節の楽しみ方ができますね。他にも以前、節分に面白いことをしていましたよね? 夕方ホームに帰ってきたら、いきなり玄関から鬼が出てきて、鬼は外・福はうち~、って(笑)。

藤井: スタッフが鬼になって驚かしてみようとかね(笑)。季節のことを好きな人も多いですしね。

心地よい共同生活の場をつくるための心がけ

和田: グループホームなので、昼間の顔とはまた違う夜の顔が、仲間のみんなにもあるんじゃないかと思うんですが。

藤井: 昼と夜では違いがありますよ。日中に活動する環境は、建物の造りとしても広い部屋で、みんなで使う大きな共同トイレがあって。でも、グループホームは、小さなリビングがあって、自分たちのそれぞれのお部屋があって、トイレも個別にポンポンと各所に配置してあって。だから、過ごし方の感覚が違うんだと思います。ホームでは皆さんが昼間よりずっとゆったり過ごしている感じがすごくありますね。

和田: グループホームで仲間たちがゆったり過ごすために、職員がそういう雰囲気をつくっているんですよね?

藤井: どうでしょう、やはり昼間に活動をするときと、住んでいる家での夜は、雰囲気としては全然違いますよね。昼間は、仲間の人数も職員の人数も多いですし、仕事や活動をやるぞ!という活気のある雰囲気があると思います。でもパストラルは、おうちなので、仲間の人数も少ないし、職員の人数も少ないですし、落ち着いた雰囲気で、音も夜のほうが静かですしね。

和田: よかったら、いぶきのグループホームがどんな場所かご存じない方もいらっしゃるので、少し聞かせてください。

いぶき福祉会のグループホーム風景

街なかの本部から30分ほど移動した、のどかな風景の中にあるグループホーム棟


藤井:
 いぶき福祉会全体では、他にもグループホームはたくさんあるのですが、私が担当しているグループホームは、全部で4棟に分かれています。1つの棟に、5人から7人が一緒に暮らしています。ホームに暮らしている理由はそれぞれですが、ほとんどの方が、やはり親さんたちが高齢になってきて、この先、自分たちで子どもたちを見ていくことが難しくなるだろうとの想定から、親さんたちのご意向でグループホームに入る方が多いと思います。

和田: どちらかと言えば、仲間たち自身が選んで入った方は少ないですよね。

藤井: それはいらっしゃらないんじゃないかな…。特に、重度の障害がある方が多く、お話ができる人がほとんどいないのでね。

和田: 部屋割りはどんなふうに決めるのですか?

藤井: 誰と一緒に住むかは職員が考えました。ひとつの棟は男女混合で暮らしていますが、3棟では、男女が別れて暮らしています。その中でも、グループホームに入る希望を出した人たちの中から、私たち職員が仲間の性格や相性などを予測して、棟や部屋割りを考えます。

和田: 仲間同士の相性を考慮することは、結構大事ですよね。

藤井: そうですね。5人や7人で共同生活していると、みんながみんな仲良しな状態はなかなか難しいですよね。お互いに気になる仲間がいる方たちもいらっしゃいます。たとえば、ある人が部屋から出てリビングに来ると、別の人は自分の部屋に入ってしまうとか。職員がある人と仲良くしゃべっていると、すごく睨みつけながら見ている仲間がいて。あ、今しゃべりたかったんだろうなという気持ちを察して、後からその人に喋りかけるなどしていますね(笑)

和田: 共同生活のなかでは、そこまで仲良くできないこともありますよね。障害のあるなしにかかわらず、ですね。そんな中でも、一緒に暮らしているからお互いに気にかけることもありますよね。

藤井: 例えば、週末に実家に帰る仲間も多く、そういう中で、いつもはちょっといがみ合っている2人でも、1人がいないと、「静かだけど、静かだけど…」と言っているんですよね。ああ、寂しいんだな、と。その方たちは10年、14年もの長い期間をホームで暮らしているので、お互いを意識しているのだと思います。

和田: 藤井さんの担当するホーム4棟では、棟によっても雰囲気は違うとは思うのですが、その中で、藤井さんはどんなふうに仲間と関わっているのですか?

藤井: グループホームだから意識しているわけではないですが、みんな自分のことを見てほしいと思っているんだと思うんです。だから、それを叶えたいって思っています。ですので、あなたを見ているよ、私にはあなたが1番よと、よく伝えています。それを仲間みんなにやっています(笑)。

和田: なるほどね。

藤井: ご自分の家だったら、多分皆さんすごくかわいがってもらって、なんでも1番にしてもらっていると思います。でもグループホームは、いきなりの共同生活です。職員は皆さんに平等にしているつもりです。そのつもりですが、一人ひとりに、あなたが1番よって、あえて伝えたいんです。そうすると、これが仲間に通じるんですよね。本当に仲間たちが私たちに見せる顔が変わってくるんです。待っていてくれて、実際に私が来たときに、“やった、来てくれた!”という表情になって、“うん、私も会いたかったよ”、みたいな感じでやっています(笑)。
いぶき福祉会の藤井美和さん

暮らしを支える24時間の支援体制

和田: すごく楽しみながら藤井さんが現場に入っている姿が見えてきたのですが、大変なことを、あえて挙げるとしたら?

藤井: グループホームは暮らす家なので、どうしても24時間のサポート体制になります。夜は夜勤があるし、週末勤務もあります。不定形なシフトになるので、体調を崩してしまう人も出てきてしまう。そうすると、急な呼び出しでシフトに入ることなどもあります。

和田: 人と関わる仕事ならではの大変さも、ありますね。

藤井: そうですね、仲間たちがこうしたいと言葉ではっきり言える人たちばかりではないので、職員は推測しながら、話し合いをしながら支援の仕方を考えます。ただ、職員ごとに価値観も暮らし方も色々なので、考え方の違いを感じる出来事が多々あります。例えば、ご飯の前にお風呂に入りたい人と、ご飯の後に入りたい人がいて私はどちらかと言えば、ご飯の前にお風呂に入りたい人なんですね。でも、寝る前に入ってそのまま寝たい人もいるじゃないですか。

和田: それは好みがいろいろありますよね。

藤井: 加えて、仲間たちも、親御さんの話を聞いていると、好みがそれぞれ違うんですよね。いつ入ってもいいというご家庭もいれば、うちの子はお風呂に入ってポカポカの状態で布団に入れてほしいというご家庭もあり、全部の希望はかなえられないなぁと(笑)。そこに、さらに職員たちそれぞれの価値観や暮らし方が入ってくるので、チームとして働くことで悩みますね。

和田: 生活を支える場だけあって、職員の生活観も反映されますね。そんなときこそ、「対話」の出番ですよね。

グループホームだからこそ、他者を意識して、助けたり助けられたりする経験ができる

藤井: コミュニケーションということでは、私は仲間と喧嘩することもあるんですよ。

和田: 仲間と喧嘩もするんですね!

藤井: します、します(笑)。

和田: 例えばどんなときに、どんな喧嘩をするんですか?

藤井: 今まで話したことと少し矛盾するかのようですが、自分らしくゆったり好きなように生活してもらいたいと思います。とはいえ、やはり共同生活なので、考えてほしいところはあるんです。それではここで暮らしていけないよっていうこともあります。その場合は、他の人のことも考えてあげてと話さなければならないこともあります。やりたいように全部してよいわけではなく、いやいやちょっと待って、パストラルで暮らしているのだから、ここはこうしようよ、という集団生活ならではの制限があると考えています。ここは一人暮らしとは違うので、普通よりは我慢を強いていることが、申し訳ないけれどもあると思います。でも、それらは案外身についていくと悪いことばかりではないんじゃないかな? 我慢をする力もあっていいと思っているので、伝えたいことは伝えています。

和田: 共同生活の場について、今、例えば、施設からグループホームへ、グループホームから在宅へ、といわれるように、グループホームをどうなのかとみる見方もあるかもしれません。でも、今話してくださった我慢を学ぶことなどは、グループホームだからこそ育める話だなと思いました。

藤井: 「お互い様」という言葉がありますが、他者も意識して、助けたり助けられたりすることにつながるのだろうと思います。お誕生日会などの自分が主役になれる場面もあったり、少し我慢するときがあったり。いろいろな場面を作っていくのが、グループホームの仕事だと思うと、やることがいっぱいありますね。

和田: そうすると、やることも、考えることもたくさんあるし、きりがないんじゃないですか。

藤井: だから案外飽きないですよ(笑)。いつも、この仲間と今日はどうやって過ごそうかなって考えるのが、私は多分、趣味なんですよ。今日はどうやって生活しようかな、この人をどうしたら楽しませられるのかな、とか。今日は全然気分が乗ってなさそうだけど、私に笑いかけてくれるにはどうしたらいいかな、とか。

和田: プンプン怒っている仲間がいたら?

藤井: 一緒に怒ってみたらどうなるかな?って思います。こんなふうに仲間を見ているから、飽きないんですよね。結構、楽しんでますよね、私。

和田: いいですね、仲間との関わりが楽しそうですね。

藤井: だけど、こちらは一緒に遊ぼうよと思っているのに、相手は放っといてよと、反応が薄くて肩透かしになることもありますけれどね(笑)。

後編に続く

いぶき福祉会の藤井美和さんと和田善行さん

いぶきのグッド・ストーリー! 
竹腰龍太 編  前半:仲間を大事に、自ら考え、柔軟に支援できる現場をつくる
竹腰龍太 編  後半:多様性が許容され、障害福祉の理解がもっと拡がる社会をつくる
藤井美和 編  前半:障害度が高い仲間の「暮らし」を支える意義と楽しさ(現在の記事)
藤井美和 編  後半:助けてもらうだけではない、貢献感覚を持てる社会を(coming soon)

この記事を書いた人

いぶき福祉会 和田善行

和田善行

わだ よしゆき
社会福祉法人いぶき福祉会 法人本部 事務長
協働責任者/社会福祉士/インターミディエイター

大学時代には、筑波大学で数学を専攻すると同時に、ボランティア・サークルを新設。障害のある方々の生活課題にまなざしを向けて、プロアクティブに活動していました。卒業後も活動を継続しながら、神奈川県丹沢主脈の山頂にある山小屋にて小屋番を経験。その後、高齢福祉の分野を経て、再び障害福祉に立ち戻るため、岐阜に移住し、社会福祉法人いぶき福祉会に所属。現在、協働責任者として、団体内外との協働を促進し、クリエイティブ・ワークチームの形成に取り組んでいます。さらに、人間回復と再生につとめながら、“競争のない、多様性が許容される社会”の実現を目指しています。

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