2024.07.26
仲間を大事に、自ら考え、柔軟に支援できる現場をつくる ──いぶきのグッド・ストーリー!① 竹腰龍太編 <前半>
こんにちは、いぶき福祉会の和田です。協働責任者として、いぶきにもっと対話と協働がうまれるよう、日々いろいろと取りくんでいます。
そこで、えんがわスケッチで、対談コラムをスタートしました。
ことの発端は2023年。社内で、「Good Story Award(グッド・ストーリー賞)」という取り組みをはじめました。みんなで現場のストーリーを集める試みです。いぶきの現場には、思わず笑顔になってしまうような素敵なストーリーがたくさんあるね。でも、忙しさに埋もれてしまってね、という、ある職員の発言をもとに生まれたものでした。
ただ、せっかく集まったストーリーを、社内だけに留めておくことはもったいない。ぜひ多くの方々に知っていただき、障害福祉の現場への理解が、もっと広まれば…、との願いから、えんがわスケッチでコラムを始めることになりました。
毎回、社内からゲストを招いてダイアログをします。いぶきの現場の今、仕事に取り組むスタッフたちの情熱やかっこよさ、いぶきらしさが、皆さんに伝わるといいな。そんな思いで、綴ります。
第1回目、初対談のお相手は竹腰龍太さん。竹腰さんと和田のダイアログ<前半>をお届けします。
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和田善行
いぶきには、「仲間を大事に」考えるよさがある
和田: 竹腰さん、今日は忙しい中、ありがとうございます。いぶきの現場の中には、色々な魅力があるのではと思っています。ダイアログしながら、いぶきの魅力、障害福祉の現場のかっこよさを、たくさん発見できるといいですね。
竹腰: いぶきのよさと言えば、まず第1に「仲間を大事にすること」ですね。
和田: いぶき福祉会では、障害のある利用者さんのことを「仲間」と呼んでいるんですよね。障害のあるなしにかかわらず、ともに過ごし、暮らし、働く仲間だということを現わしています。
竹腰: これは何よりもいぶきが誇れることです。今、僕は畑で農作業を担当していますが、畑では自然が相手なので、作業しようと思っても天気が悪くてできなかったり。いぶきが休みの土日は作業ができなかったり。いろいろな制約があります。
今日は、休みの職員が多かったのですが、こういう様々な制約条件の中でも、仲間を大事にするという視点は、いぶきではとても大切にしていますよね。
僕たちは、例えば、草が伸びたからといって、仲間はずっと部屋にいてもらって、職員だけで草刈りに行くというスケジュールは、まず組みません。仲間とともに行動します。そういうところは、いぶきのよさのひとつなんじゃないかなと。
和田: いぶきの仲間を大事にする姿を見て、いぶきで働きたいとおっしゃる方もいましたね。
竹腰: そう思っている一方で、何もかもが仲間中心というわけにもいかないだろうとも思っていまして。職員の持続性も大事だと考えています。
和田: もう少し聞かせてください。
竹腰: 例えば、明日、外出に行くというときに、必要な用意をするとなったら、やり込もうと思えばいくらでも深くできます。そこで、それが全部仲間のためだからと、夜10時11時まで残って準備するのが、本当にいいのか。このやり方だと、職員自身がもたないし、続けられなくなります。職員自身も一緒になって活動する主体ではあるので、続けられなくなるのでは困ります。
和田: それはそうですね。職員あっての現場ですから。職員としてはいつもベストを尽くしたいと思っているでしょう。でも、必ずしも「ベスト・プラクティス」じゃなくてもいいですよ。「ベター」でいい。今日よりも明日、明日よりも明後日、というように、皆で「ベター・プラクティス」な、よりよい活動ができるといいですよね。
計画した日課も臨機応変に変更。目指したいのは、自分たちで考え、柔軟に対応すること。
和田: 計画していた日課が変わることってあるんですか?
竹腰: 僕のいる“ごんのしま”(グループ名)だったら、大体、1週間の予定を決めます。この日には何をやってという大枠はあらかた組むんですが、大体それ通りいくことの方が少ない(笑)。組んだ日課も、仲間の考えで変わることもあります。
和田: 予定通りには、なかなかいかないんですね。
竹腰: やはり天気と、体調不良の人が出たり。それから、他のチームから納品に行ってきてほしいというリクエストが入れば、少しスケジュールを組み変えることになったり。
和田: 予想もつかないようなことが、しょっちゅう行われている状況だと、仲間は大丈夫ですか。
竹腰: やはり、予想がつかないことをすることが苦手な仲間は、外出に行く予定を組んでいても、一緒に行けなかったりすることがあります。
和田: そうでしょう。
竹腰: 例えば、今日は1日晴れているのに外で草引きができないと、なぜできないのか?となる仲間もいますので、本当に様々な要因がありますね。
和田: 私も以前は現場に入っていたので感覚はわかります。昔、プールに行くことがあったんですよね。雨が降っているにもかかわらず、仲間たちがどうしてもプールに行くというので、しょうがないからプールに行きましたよ、雨の中でしたけれども(笑)
竹腰: 屋外のプールへ? 室内のプールじゃなくて?
和田: そうそう、そういうこともありましたね(笑)。でも、ずいぶん日課を柔軟にやりくりしているんですね。
竹腰: 特に職員の動きに関しては、最大限、柔軟に動きたいと思っているんです。仲間の活動に対して、どういう職員の動きだったらできるのかということを考えた時に、この人じゃないとこの活動ができないとか、この人じゃないとこの仲間の対応はできないということが、あります。
その中でも、昨年度からいぶきに参加しているAさんは、室内での仕事よりも外での仕事がやりたい仲間なんです。僕と1対1でなら畑に行って作業ができるという様子だから、逆に昨年度よりも僕は畑でいろいろ動くようになっています。
和田: そうすると、それだけ関わる職員も柔軟じゃないと、うまく対応できないですよね。
竹腰: 実際には、職員も、人によって得意なことと苦手なことがあるから、全員が同じようにというのはなかなか難しいんですよね。ただ、職員がずっと固定になってしまうと、自分はここだけしかやらなくていいというマインドになってしまうので、それをできる限り、みんなが対応できるように。
今の時点でみんな見ましょうと言っても、それでは辛い人もいるので、スモール・ステップで、できることを1個ずつ増やしていくということですね。
和田: 今、そのために取り組んでいることって、何かありますか。
竹腰: お互いに声をかけ合って進めることですね。例えば、僕は今、“ごんのしま”でサービス管理責任者をやらせてもらっていますが、みんなは僕の決定や指示を、期待してくださるんです。
でも、目指したいのは、むしろ、「自分たちで考える」こと。これとこれをしてねと指示を出せばできる状態ではなく、一人ひとりが一度考えて、このように考えたけど、どうでしょう?と言ってきてくれるのが、すごくうれしいです。こういう場面が増えるといいなと思っていて、ちょっとずつですが、増えているなあと思ってはいます。
「失敗」など、ない。ただやり直せばいいだけ。
和田: 今のお話を聞いていると、竹越さんがあいだに入って、いろいろな職員の動きを作りやすいように立ち回っている雰囲気がありますね。それは、ただ単に指示じゃなく、自発性を重視するとことがポイントですね。
竹腰: でも、全部が全部うまくいっているわけじゃないんですけれども。いろいろ揺れながらで。
和田: 失敗もありますよね。
竹腰: そうですね。失敗をせずにやっていくのは難しいかなと思って。
和田: ただ、それを失敗だといわなければいい、というとらえ方もありますよ。すべてがプロセスだと考えれば、ただやり直せばいいだけですよね。
竹腰: それはあります。仲間の活動で、失敗しないように、失敗しそうなことは先回りして職員がやっておくことはせずに、やってみてダメだったら次のやり方を考えていけばいいと思えるように、恐れずやってみたらいいと思います。
和田: 竹腰さん自身、いろいろやらなくてはいけないことがあるじゃないですか。どういうふうに職員と交わってやっていらっしゃるのか、その辺はいかがでしょうか?
竹腰: そうですね、例えば、自分が午前中に散歩に行っていたとすると、同時に部屋に残っている人もいます。その時には、部屋にいた人たちはどうだったのか、尋ねるようにしています。お互いに見えてないところを話して情報を共有することは、とても大事なことです。自分の担当した活動だけ知っていれば終わりではないことを、みんな理解して対応しています。
和田: 竹腰さん自身も仲間と1対1で接しなくちゃいけない場面もあるだろうし。それ以外の場面でもみんな動いているわけで。そんな中、竹腰さんが皆さんと対話しながら、現場を繋いでいっているんですね。
竹腰: 情報共有も、例えば指示を出して情報を伝えてもらうときと、各自が自分で考えて自発的に情報伝達することでは、意味合いや伝え方が全然違います。あの人に伝えたらきっと助かるだろうなと、相手のことを想像できることは大事かと思うので、こういう積み重ねが対話につながっていくのかなと思いますね。
支援は恐れず、より自由に。仲間のことを考えて行った支援なら大丈夫。
竹腰: ちょっと話がずれるかもしれないですが、長くいぶきに参加している仲間については、だいたいどういう動きをするかが見えています。一方で、比較的新しく参加した仲間については、まだ見立てを探っている段階です。その仲間が何につまずくのか、何が嫌なのかなどを考えて、試行錯誤が続きます。
新しい仲間の場合は、いろいろなことを試してみないと分からないですし、試してみるということも、どの範囲までやっていいのか。逆にそれをやることで、そういうことしかできなくなるんじゃないかとかという迷いは、今、よく感じているところなんです。
和田: なるほどね。新しい方については、その辺の見極めが大事ですね。
竹腰: はい、自分が支援をするときは、かなり自由にやるんですよね。
和田: 例えばどういうふうに自由に?
竹腰: 例えば、Aさんが室内にとどまっていることが苦手なため、僕は部屋に近い自転車置き場に、暑くないスペースをつくって、Aさんのための避難場所としました。ただ、ハウスのように設営したものを見て、なんでそうしたのかと批判されたらどうしようと思う職員も、いるかもしれません。でも、仲間のためにいろいろ考えてやったことは、必ず次につながっていくから大丈夫だと、職員の皆さんに話をしています。
和田: お話を聞くと、Aさんは、今は竹腰さんとは結構いい関係をつくれているのですよね。
竹腰: といっても、僕が、じゃあ室内でお茶飲みの仕事をやろう、と誘っても、来ないですからね(笑)。室内に入ることが、かなりハードルが高い。ただ、仮に、外に行きたがることを力ずくでも阻止していたら、外の空間という逃げ場もなかったわけで、そうしたら今はどういう状態だったのか。そう考えると、もっと悪いふうになっていたんじゃないかなと思っているんです。
和田: なるほど。
竹腰: この時間は室内で活動するからと、ずっと室内に座って仕事をやらされていたら、今よりいぶきに対しての嫌な思いが募って、もっと別の形で現れてしまっていたのではと。そういった大きいところにも日々の活動が、繋がってくるのかなと思うんですよ。最初の頃は、室内におれるようにと試行錯誤したのですが、その後、好きなようにしようとなっていきました。
その方の場合、お母様が送迎をなさるので、朝も帰りも、細かく情報共有することができます。それをもとにまたいろいろ考えて試しています。畑だったり、散歩だったり、自転車置き場につくった避難場所のような場所とか。他にも、耳につけるイヤーマフ、サングラスを買ってみたり、プラスチックのチェーンを付けてジャラジャラと遊ぶようにしたりと、いろいろなこと試して今の状態に至っています。
和田: 中にいると苦手な声があったり、なかなか踏み出せないけれども、好きな外の場所で、ただ外が好きだからじゃなくて、そこに竹腰さんという人がいて、ここで休憩していいんだよという、ちょっとした安心感があって。この人とだったら安心してやれるのかなと、そんなふうに思われているかなと感じました。それが広がっていくといいですよね。
◆いぶきのグッド・ストーリー!
①竹腰龍太 編 前半:仲間を大事に、自ら考え、柔軟に支援できる現場をつくる (現在の記事)
②竹腰龍太 編 後半:多様性が許容され、障害福祉の理解がもっと拡がる社会をつくる
③藤井美和 編 前半:障害度が高い仲間の「暮らし」を支える意義と楽しさ
④藤井美和 編 後半:助けてもらうだけではない、貢献感覚を持てる社会を(coming soon)