2024.08.14
多様性が許容され、障害福祉の理解がもっと拡がる社会をつくる ──いぶきのグッド・ストーリー!② 竹腰龍太編 <後半>
こんにちは、いぶき福祉会の和田です。協働責任者として、いぶきにもっと対話と協働がうまれるよう、日々いろいろと取りくんでいます。
そこで、えんがわスケッチで、対談コラムをスタートしました。
ことの発端は2023年。社内で、「Good Story Award(グッド・ストーリー賞)」という取り組みをはじめました。みんなで現場のストーリーを集める試みです。いぶきの現場には、思わず笑顔になってしまうような素敵なストーリーがたくさんあるね。でも、忙しさに埋もれてしまってね、という、ある職員の発言をもとに生まれたものでした。
ただ、せっかく集まったストーリーを、社内だけに留めておくことはもったいない。ぜひ多くの方々に知っていただき、障害福祉の現場への理解が、もっと広まれば…、との願いから、えんがわスケッチでコラムを始めることになりました。
毎回、社内からゲストを招いてダイアログをします。いぶきの現場の今、仕事に取り組むスタッフたちの情熱やかっこよさ、いぶきらしさが、皆さんに伝わるといいな。そんな思いで、綴ります。
第2回目は、竹腰龍太さんと和田のダイアログ<後半>をお届けします。
- 執筆:
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和田善行
自発的に動いて、日常的に「対話」を重ね、現場をよりよく。
竹腰: 僕は入社して14年目になるんですが、全体的に今は正職員の人数が少し少ないのかなとは思っています。畑のところでいうと、収穫量という点では縮小方向で検討しています。といっても、ただ野菜を採って売るということではなく、活動内容を農業体験などで畑に来てもらうことを考えているんですよ。地域の人たちが参加してくれて、仲間が自分のやっていることをシェアできるような農業体験ができれば、地域の方々に障害のことも理解していただくきかっけにもなりますので。
和田: 野菜や果物を作って売ることにとどまらず、「体験」や「経験」、そして「人との関わり」や「対話」を大事にしていくのは、いぶきらしくていいですね。
竹腰: 「対話」ということでいえば、今、畑チームに来て3年目の職員とは、かなり日常的に対話ができていると思っていまして。やっていく方向などを、大きい会議ですり合わせるのではなく、畑作業を一緒にしながらなど、日常の中で話しができているんですよ。
和田: 改まって対話の時間を別でつくるのではなく、普段から、日常の場面場面で対話があるということがすごく素敵やな、なんて思いましたね。
竹腰: 他にも、2年前に、以前同じチームにいた職員が、別のチームに移動になった後、畑の仕事が忙しい時にチームを超えて手伝いにきてくれたんです。いつもは室内で作業している仲間たちですが、スナップエンドウを収穫したり、草引きしたり、ビニールマルチを土から掘り起こして外したり。こういった活動をしたら、ものすごくいい表情で仲間たちが畑での活動ができたということが印象深かったです。こちらからお願いする前に動いてくれた、その職員の自発性もよかったですし。
和田: 部屋を超えて活動の幅が広がっていくというのが、いいですね。
竹腰: 人数が足りないからサポートに行ってくれといわれて仕方なく来た人と、自発的に思いがあって動いてくれた人の気持ちって、全然違うんですよね。
和田: モチベーションが全然違うでしょうね。
竹腰: ですので、出来る限り、足りない穴を埋めていく動きよりも、自分からやりたい気持ちがあって動いてもらうほうがいいですね。これは、去年度のある会議でも話題にしたのですが、「協働」というものは何か。自分はここまでやって、あとは気にしないんじゃなくて、自分がこういうところをやりたいという気持ちを大事にして動いていくのが、きっと最初の一歩だろうと思っています。
和田: そういえば、先日、竹腰さんが、チームに声をかけた姿が良かったですよ。竹腰さん以外の責任者が出払ってしまう日があって、その時に、チームを超えて全体に、何かあったら僕に連絡ください、相談してくださいと、朝の打合せで話したことがありましたよね。
竹腰: 一人一人の職員さんは、みんな力を持っている方々なので、自分を信じて活動できれば大丈夫なんですが、ただ、何かあったときに相談できる人がいないと、やはり心細かったりしますよね。だから朝の朝礼で、その一言を言うと、皆さんも安心するかなと思ったものですから。
和田: その一言があるのとないのでは、職員さんたちの安心が違ったと思いますね。頼もしいですよ。
仲間の存在にエンパワーされて、いい仕事ができる
竹腰: 僕は、仲間が来るとすごいスイッチが入るんですよ。今日も、休み明けで、まだちょっと眠い中、仕事に来て、ぼちぼち仕事を始めてはいました。が、仲間の顔を見た瞬間に、急にスイッチが入って、今どういう風に職員が動いていて、仲間がこれだけいて、どういう動きをしたらいいのかというのを、頭がパッパッパッと動いて考えられて、一気に仕事モードになるというか(笑)
和田: わかる、わかる!
竹腰: 仲間がスイッチを押してくれるというのは、この仕事をしていて、ありがたいというのかなぁ。
和田: 仲間が来るとスイッチが入りますよね。現場を思い出します。仲間を見ていると、ああ今日は機嫌が悪いな、どうしようかなとか、僕らも考えるんだよね。あ、今日は機嫌がいいから、少し今日は冒険してみようかなとかね。それから、今日の仲間はしゃべりたいモードなんだなとか。
竹腰: そうですね。今の和田さんもそうやって話されていると、ちゃんと相手の気持ちに向いてっているのが分かって、うれしいですね。畑のことで、天気に応じて日課が変わるという話がありましたが、その日の、その人の心の状態でもいろいろと変わってくるなって思います。
和田: 心の状態をつかみながらとなると、大変な面がありますよね。その中で、仲間の日課をどう作っていくのかが、僕たちの仕事のひとつです。どうやって人との関わりをつくってくか、あるいは職員と仲間だけではなく、仲間と仲間をどうつなぎ合わせていくか。大事な仕事ですね。
竹腰: 明日は喫茶店外出なんですよ。仲間たちは、外の世界と接点を持って、喫茶店で人との関わりを経験します。もうひとつ、これは給料を使う機会という意味もあります。自分が関わった取り組みから給料もらうわけですが、そのお金を使って、自分の好きなものを食べることに意味があります。
和田: わずかではありますが、毎月もらっている給料の中から、いくらかをそういうところに行って使ってみるという、体験のような意味合いですよね。そうすると、自分の稼いだお金は使うことができるのだ、ということを学ぶわけですね。
竹腰: そうですね。ごんのしまの仲間でも、給料と外出時に使うお金との関係が、結びついている仲間もいれば、まだちょっとお金って何?という仲間もいたりするんです。それでも、こういう取り組みを続けていくことが大事だと思います。特に喫茶店外出は、なんとか今年度は毎月1回はできるようにと考えています。
和田: コロナ禍はこれができなかったですからね。
竹腰: そうですね。コロナの時には、外出は縮小していましたね。影響は大きかったです。ただ、今も、フードコートでみんなでご飯を食べる活動は、まだ控えています。
和田: 食事場面は気をつけないといけないことが、まだまだありますね。プールの取り組みなどもなかなかいいんじゃないですか。
竹腰: そうですね。プールは森山さんがかなり中心で行ってくださっています。かなり通っている仲間もいますよ。新しい仲間も、水が好きかもしれないから行ってみようか、と話しています。友愛プールが近くにありますので。
和田: 今は屋内だよね。以前は夏だけオープンする屋外プールだったからね。
竹腰: あのう、僕自身がプールが苦手なんですよ。基本、メガネはダメじゃないですか、プールって。
和田: あ、プールは眼鏡じゃダメだね。
竹腰: 何も見えないので、自分はプールでは泳げないんですよ。
和田: 私も眼鏡だから、泳げない(笑)。でも昔は、仲間たちがプールはとても楽しみにしているから、それでも一緒に行きましたね(笑)。
多様性の大切さを再認識した、型破りな「成人を祝う会」
竹腰: もうひとつ、先日、「成人を祝う会」を開催したのですが、良かったです。20歳を迎えた仲間が、外出などにみんなと一緒に行けない仲間なんです。明日の喫茶店外出もいけず、僕と1対1で、別のところになら、かろうじて行けるぐらいの仲間です。ですので、毎年たいていコミュニティ・センターを借りて大きい会場でやるのですが、きっとそこには行けないだろうと考えて、ごんのしま作業所の2階を会場に実施ました。車に乗って移動というハードルもなくせて、慣れている空間で実施ができました。
和田: そうでしたね。
竹腰: 実際、会場の前のほうに主役の席が用意されていたのですが、そこに座ることに抵抗があって。主役が後ろのほうのソファーに寝そべっている状態で、式がスタートしたんですよ。ムービーが流れると、ちょっと興味を持って見たり。恩師の先生が話すと、耳は傾けて寝そべりながらも話は聞いていられました。前の主役席ではなかったけれど、会場で参加ができました。花束を親さんに渡すときには、もうだいぶ会場に慣れてきて、前に移動し、花束を持つことができて、無事に20歳を祝う会ができました。だいぶ不安が強いタイプで、特に不安が強いと手汗をかくので、手も汗びっしょりな状態でしたが、本人も頑張っているんですよ。周りのみんなも、後ろの席でも会場にいてくれるだけでいいという雰囲気で式を進めれたのが、よかったです。本人もかなり緊張はありましたが、終わってみたら、次につながる経験だったなと思います。
和田: そのエピソードが、すごくいいなと思ったんですよ。二十歳を祝う会と聞けば、必ず主賓が前にいなくちゃいけなくて、ギャラリーがこっち側にいるという、そういう場面を想像していたじゃないですか。でも、必ずしもそうじゃなくてもいいんですよね。どこにいるか分からないけれども、その場を共にしていて、寝そべっていても何もしないわけじゃなく、話も聞いていた。参加のスタイルはいろいろあっていいのだ、という、いぶきらしいエピソードです。多分、彼がある意味、成人を祝う会の形を変えてくれましたよね。
竹腰: なんだかんだで、いろんな姿を受けとめて認めるという、いぶきの姿勢が、ああいう式の形をつくったのかなと思います。
障害福祉を身近に感じる社会に。考えて、楽しんで、仲間の可能性をひらく活動を。
和田: いぶきが外とつながることで、さらに広がってほしいことがありますか?
竹腰: 大きく言うと、障害福祉という考え方が身近にある社会になっていくといいと考えています。障害を持っている人と障害を持ってない人をしっかり分けて、障害持ってない人はもう考えなくていい社会ではなく。自閉症スペクトラムという言葉がありますが、”スペクトラム”なのですよね。障害のあるなしではなく、いろいろなグラデーションの中の連続体のひとつなのだという考え方です。
だから、自分は障害を持ってないから関係ない、ではなく、障害を持っている人の生きづらさは何かを考えてみる人が増えるといいと思います。合理的配慮の義務化が企業に求められていますが、言われたからやらないといけないというスタンスではなく、お互い歩み寄っていくような社会がいいのではないかなと思っているんです。障害者だから、なんでもかんでもやってくれないと困る、ということでもない。全面的に受け入れますよというスタンスではなく、本当にフラットな目で人間と人間との関わりや営みがある社会を、大きい意味でいえば、広げていきたいですね。
和田: 「障害」という概念を超えて、どう繋がっていくかとか、生きづらさを抱えている人とどうつながっていくか。大事ですね。
竹腰: それから、いぶきで考えた時に、いぶきが地域の担い手になる未来があると思います。僕は特に今は畑を担当していますが、地域では農業従事者の不足が言われています。農業で働く若者世代がいないと考えた時に、いぶきの仲間たちは農業を頑張っている実践があります。障害者だからではなく、地域の課題を解決するひとつとして、いぶきの取り組みがあると、障害福祉への理解が広がっていくのだろうなと思うんです。
和田: 今は農福連携とも言われますが、どこでも人手不足ですよね。お互いに人を取り合うのではなく、そこをどうつなげて解決していくかというときに、いぶきが関与できる道があるなと、竹腰さんのお話を伺って思いました。
竹腰: この仕事をしていて、このやり方でいいのか迷う時があったり、でもこれで良かったんだと思うときもあります。そんな中で、僕は自分らしさがテーマでもあります。ある先生から、自分の出来なさをごまかす言い訳にしてはダメだといわれたのですが、それでも改めて考えても、いぶきは自分らしさが輝く職場なのではないかと思っています。
和田: 竹腰さんを見ていると、いぶきが団体として未来に向けて実践していることと、自分らしさがきちんと重ね合っているような感じがあります。うん、いい感じじゃないですか!
竹腰: 僕も、自分自身がいろいろ変わってきている実感もあります。親からも、大学生の時や社会人1年目の頃と比べると、ずいぶんとプラスに変わったといわれました。ただ、もちろんとことんダメなところもあるので(笑)。でも、そういうところも含めて、お互いに認め合えるようになるといいですね。
和田: そうですね、いろいろな人がいて、いろいろな多様性があってね。今回竹腰さんとのダイアログで、前向きにいろいろ活動しているなあという印象を、改めて持ちました。考えながらやっていて、同時に楽しんでやっているように感じ取れたものですから、そのまま続けてやっていくといいよね、と思いました。それから、仲間の可能性をどうさらに広げていくかは、おそらく際限がない領域だと思います。そうであるからこそ、ぜひこれからも、いろいろな仲間の可能性を引き出していただけたらと思いました。今日はすてきなGood Storyを、ありがとうございました。
◆いぶきのグッド・ストーリー!
①竹腰龍太 編 前半:仲間を大事に、自ら考え、柔軟に支援できる現場をつくる
②竹腰龍太 編 後半:多様性が許容され、障害福祉の理解がもっと拡がる社会をつくる(現在の記事)
③藤井美和 編 前半:障害度が重い仲間の「暮らし」を支える意義と楽しさ
④藤井美和 編 後半:助けてもらうだけではない、貢献感覚を持てる社会を