音楽という共通の話題を媒介に、障害のある仲間とのよい関係がはじまった──いぶきのグッド・ストーリー!⑤小田由生 編 <前半> | いのちと生活を支えるえんがわピープルの物語

音楽という共通の話題を媒介に、障害のある仲間とのよい関係がはじまった──いぶきのグッド・ストーリー!⑤小田由生 編 <前半>

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いぶきからのコメント

こんにちは、いぶき福祉会の和田です。協働責任者として、もっといぶきに対話と協働がうまれるよう、日々いろいろと取りくんでいます。
そこで、えんがわスケッチで、対談コラムをスタートしました。
ことの発端は社内での対話の会でした。いぶきの現場には、思わず笑顔になってしまうような素敵なストーリーがたくさんあるね。でも、忙しさに埋もれてしまってね、という、ある職員の発言をもとに、「Good Story Award(グッド・ストーリー賞)」という取り組みが生まれました。みんなで現場のストーリーを集める試みです。
ただ、せっかく集まったストーリーを、社内だけに留めておくことはもったいない。ぜひ多くの方々に知っていただき、障害福祉の現場への理解がもっと広まれば…、との願いから、えんがわスケッチでコラムを始めることになりました。
毎回、社内からゲストを招いてダイアログをします。いぶきの現場の今、仕事に取り組むスタッフたちの情熱やかっこよさ、いぶきらしさが、皆さんに伝わるといいな。そんな思いで、綴ります。
第5回目は、小田由生さんと和田のダイアログ<前半>です。

仲間への思い

和田: 小田さんと今回お話したいと思ったきっかけがありまして。実は僕は、かつて一度、小田さんに怒られたことがあるんですよ(笑)。

小田: え? いつのことでしょう?

和田: そう、覚えていらっしゃらないと思うんですけど、小田さんが第二いぶきに来て、2~3年の頃かな。用事があって、僕がコラボ(チーム名)に行った時に、仲間の取り組みをなんらか邪魔したんですよね。その時に小田さんが、仲間が困っているので邪魔をしないでほしいと、おっしゃったことがあったんですよ。何をしたからそうなったかは覚えていないのですが、その時、小田さんは仲間に対する思いをたくさん持ってらっしゃるのだなと感じたんですよね。

小田: ごめんなさい!覚えてないです、そんなことがあったんですね。

和田: (笑)。ですので、今日はいろいろ仲間への思いや小田さんの考えを聞かせてもらえたらうれしいです。今は百々染(ももぞめ)のチームにいらっしゃいますよね。

小田: はい。百々染の部屋に所属して、今年で3年目になります。草木染の百々染ブランド自体は、いぶき福祉会が2011年の12月から立ち上げました。部屋の名前は「いろどり」といいます。いろどりの部屋は2つのグループに分かれていて、「ほほえみ」と「すばる」というグループがあります。ほほえみの部屋では、染料の材料として採ってきた木の葉っぱや枝をちぎる作業をしています。すばるの部屋は、染めを担当します。トートバッグやマルシェバッグ、ストールや糸を染めています。

和田: 百々染をご存じない方もいらっしゃると思うので、どんな取り組みをしているのかお話ししていただいてもよろしいですか?

小田: 材料となるのは、季節の草花です。仲間と一緒に散歩に行ったときに採取した草花や、近所の方々からいただいたものを染料にして染めています。

小田: 一人ひとり染め手が違いますので、ふたつとないところが、百々染の素敵なところです。

和田: ひとつひとつがすべて異なる、多様性を象徴したような貴重な取り組みですよね。小田さんはそこで普段どんな仕事をされていますか?

小田: 1年目、2年目は、みんなと楽しく、草花をちぎるほほえみの部屋を担当していました。枝をボキっと折ってしまう力が強い仲間もいたり、細かい作業が得意な仲間もいたりしますので、その仲間の特性に合わせたちぎり方で一緒に仕事をしていました。今年になって、染め担当のすばるの部屋に移りました。その中で今まさに、いろいろ葛藤をしています(笑)

プロセスを見直し、さらに楽しくやりがいを感じる仕事へ

和田: どんな葛藤をされているんですか?

小田: 百々染は2011年からスタートして、今までに色々な職員が、この仲間にはこの仕事がいいだろう、こういう作業の仕方がいいだろうと考えて、今の作業工程が生まれたと思います。ただ、それを見直してもいいのかなと考えて、動いています。

和田: いぶきでは、障害のある仲間に、用意した仕事を与えるという考え方ではなく、障害の特性に合わせて仕事を創るという考え方でこれまでやってきていますよね。仲間のやりがいを感じながら、見直しをかけていくのは、とてもいいことではないですか?

小田: そうですね。染める時に染液を使うのですが、水があることでバシャバシャと遊びたくなってしまう仲間がいます。そうならないように、染液をビニール袋に入れた袋染めだったらできるんじゃないかということで、ビニール袋に染液とトートバッグが入ったものをゆっくり揺らして染めています。ただ気になったのは、“はい、これお願いします”と、袋に入った状態のものをもらって、それを揺らしている仕事って楽しいのかな、と。どこまでやりがいが持てているのかな、と考えてしまったんです。

和田: なるほど。仲間のやりがいを重視して、生きがいを持てるように考えて工程を再検討するのは、大事ですね。

小田: それで、一緒に働いている職員に話をした時に、私もそう思うと賛同してもらえたんですね。そこで、用意してもらった袋をゆらすだけでなく、染液をブレンドするところから仲間自身ができないかと、工程を見直しているところです。

和田: その結果、仲間の感触はどうなりましたか?

小田: 皆さん楽しそうですね。お湯と染液を手桶ですくって入れるのですが、ちょっと入れすぎじゃない? とか、それぐらいでいいんじゃない? なんて言いながら。水で遊んでしまうかなと思っていた仲間も、集中してブレンドしています。仲間と一緒に挑戦してみることで、仲間の新しい姿が見えてきたので、一緒にやってよかったと思います。

和田: この新しいチャレンジで、以前よりも、仲間自身ができることを進んでやるような、主体的に取り組めるようになってきた印象がありますね。楽しさとか、ワクワクした気持ちがもっと生まれそうで、期待がかかりますね。

小田: 自分たちで染め上げるプロセスも一緒に楽しみながら、ひとつのものを作り上げていくことに魅力があるかと思います。

和田: そうですよね。ちょっとしたエピソードもふくみながら仕上がっていくことも、百々染の魅力ですね。小田さんの周りでは、日々エピソードが満載ではないですか?

小田: そうなんです、もうひとつ、エピソードといっても失敗してしまったことなのですが…。

和田: 前々回の竹腰さんとのダイアログの時にも、「失敗」について、話にあがったんです。竹腰さんもそうおっしゃっていましたが、僕は、失敗はないと思っているんですよ。そのエピソードをきっかけに、その次の展開が生まれていくと思うんです。次に活かされたら、失敗とは言わないですよね。きっとチームづくりに活かされていくんじゃないかな。

小田: はい、今のチーム・メンバーたちも、”失敗したから、じゃあやらない” ではなく、”じゃあ次、どうしていったらいいか” を一緒に考えられるチームなんですよ。

和田: チームにいいムードをつくっていますね。

小田: 先日のことなんですが、先ほどお話したように、染液からつくってみようとプロセスを変えてしまったので、変化が苦手な仲間が混乱して、順番がわからなくなってしまったんです。丁寧にひとつずつ取り組んでいけばよかったのですが、がらっと変えてしまったので…。それが今回の失敗です。今はいったんやり方を戻して、いちから、丁寧に仲間とプロセスを検討しようと思っているところです。

和田: 根気のいることですよね。今のエピソードから、仲間だけが、じゃなく、仲間と職員が、分け隔てなく一緒に取り組んでいるという印象をもちましたね。

小田: そうなんです、今まさに、一緒につくりあげているところです。

和田: 失敗とはいっても、ともにつくり上げていくプロセスの中でのことですし、さらにいい取り組みになると良いですね。

いぶき福祉会の百々染をつくる仲間
百々染のために花をちぎる

音楽という共通の話題が媒介となり、仲間とのよりよい関係への一助に

和田: 僕は今回、小田さんに様子を聞いてみたい仲間が一人いらっしゃるんですよ。

小田: えー、誰ですか?

和田: Yさんのことなんですよね。

小田: あー、Yさんですね。はい、Yさんは私がいろどりを担当するようになってから、たくさん関わるようになりました。

和田: そうですよね。いかがですか、Yさんとどのように関わっていらっしゃいますか?

小田: Yさんは自分の思いがあるけれど、うまく相手に伝わらないという事があります。言いたいことがあると、体に力が入ってしまう。それで、ガタガタと体が鳴るので、見ている人は怖さがあるような表現力です。でも、彼の表現してくれている気持ちや思いって何だろう、ということを知りたくて、“今何が言いたかったの? 伝えたい人のところに行ってもいいよ”というようにやりとりをしてきました。右に麻痺があるのですが、左手で車いすを操作することができるので、車いすを動かして話したい人の所に行って話ができると、伝わった喜びから笑顔から溢れます。そんなふうに、丁寧に伝えたいことを探るようにしてきました。

和田: そんなYさんとなんとか関わりをつくりたい小田さんの姿があって、いいですよね。Yさんとは、お話はどうやってするのですか?

小田: 言葉は話せないのですが、こちらの質問に対して、「ウン」と返事をしたり、手でタッチしてくれたりします。その「ウン」やタッチの表現も強弱や表情が様々なので、そこから思いを探ります。関係を築くには一筋縄ではいかないのですが、こちらが一生懸命思いに応えようとしていることは感じてくれていると思います。

和田: Yさんは音楽がお好きだと聞きましたが…

小田: そう、Yさんは音楽が好きなんです。彼も私も好きなアーティストがいるので、そんな話題から入って距離を縮めていけたかな。

和田: へー、いいですね。Yさんはどんなアーティストが好きなんですか?

小田: Yさんは、好みの幅が広くて、演歌も好きで八代亜紀さんとか。あとは、ゆず、コブクロ。私との共通は、SEKAI NO OWARI(セカイノオワリ)、髭男(ヒゲダン)とか。他にも、いろどりの部屋の職員が好きな嵐。音楽を通じて、職員との関わりを見せてくれているのが、Yさんの姿ですね。

和田: Yさんご自身が、人との関係を望んでいたように感じますね。

小田: そうですね、人が好きなんですよね!

和田: 自分の思いが相手に伝わらなくて怖い感じで体を表現するけど、小田さんとだったら関係をつくっていきたいと思えるようになって、Yさん自身が開かれていったようですね。音楽が好きで、音楽からつながっていったということですよね。いい関係づくりのアプローチですね。

小田: 関係ができてくると、色々なことに一緒に挑戦することができました。彼は車いすで生活をしているんですが、ずっと座ったままだとおしりが痛くなってしまうのでソファーやマットレスに、座れるといいなと思っていたんです。ちょうど関係が築けてきたころに、ソファーで音楽を聴いてみる?とか、マットでストレッチする?と語りかけたときに、自分から足のベルトを外して、いいよ、と表現してくれたんですよ。

和田: おー、それはびっくりだね、嬉しいですね!

小田: 嬉しかったです。

和田: 人との関係づくりによって、過ごし方が豊かになるというか。今まではどう人と関係をつくったらいいか分からなかったYさんが、小田さんを通じて関係づくりができたおかげで、生活のしやすさが生まれてきましたよね。いいエピソードですね。今日は聞いてみたかったんですよね。

小田: これからは、職員や仲間との関係をさらに広げていってほしいと思います。

和田: どう広げようと思っているのですか? ちなみに、最近、新しく入られた職員のOさんは、嵐が好きだと小耳にはさみましたよ。Oさん自身も、音楽をきっかけにYさんとの関係をつくってきていると聞きました。

小田: そうなんですよね。食事などの場面で、慣れていない人だと緊張したり不安になったりして、ちょっと一緒に食べるのは待ってくれ、というときがあったそうなんです。でもOさんから、好きなアーティストいる?と語りかけるところからはじめることで、Yさんが穏やかになって不安も少しやわらぐんですかね、今は新しい職員とも食事がスムーズに食べられています。

和田: 新しく入ってきた職員のOさんも、音楽を通じてYさんとの関係づくりができたようですね。

小田: Yさんには音楽以外にも言いたいことがありますから、他のことも聞いていかないといけないと思っています。ですが、音楽を通して心を開く、関係を築くきっかけになる、音楽の力ってすごいな、と。

和田: 人と人のあいだを媒介してくれるものとして音楽があるんじゃないかと思いますね。そんななかで、小田さんのYさんへのいたわりがあるから、こういうふうにコミュニケーションが広がっている感じがしますね。

 

後編へつづく…

いぶき福祉会 和田さん、小田さん

参考情報
いぶき福祉会の百々染ウェブサイト http://momozome.jp/

いぶきのグッド・ストーリー! 

竹腰龍太 編  前半:仲間を大事に、自ら考え、柔軟に支援できる現場をつくる
竹腰龍太 編  後半:多様性が許容され、障害福祉の理解がもっと拡がる社会をつくる
藤井美和 編  前半:障害の重い仲間の「暮らし」を支える楽しさと大切さ
藤井美和 編  後半:助けてもらうだけではない、貢献感覚を持てる社会を
小田由生 編:音楽という共通の話題を媒介に、障害のある仲間とよい関係がはじまった (現在の記事)
小田由生 編:Coming soon!

 

いぶき福祉会の百々染

この記事を書いた人

いぶき福祉会 和田善行

和田善行

わだ よしゆき
社会福祉法人いぶき福祉会 法人本部 事務長
協働責任者/社会福祉士/インターミディエイター

大学時代には、筑波大学で数学を専攻すると同時に、ボランティア・サークルを新設。障害のある方々の生活課題にまなざしを向けて、プロアクティブに活動していました。卒業後も活動を継続しながら、神奈川県丹沢主脈の山頂にある山小屋にて小屋番を経験。その後、高齢福祉の分野を経て、再び障害福祉に立ち戻るため、岐阜に移住し、社会福祉法人いぶき福祉会に所属。現在、協働責任者として、団体内外との協働を促進し、クリエイティブ・ワークチームの形成に取り組んでいます。さらに、人間回復と再生につとめながら、“競争のない、多様性が許容される社会”の実現を目指しています。

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