いぶき福祉会のグループホームえんがわピープルの物語

助けてもらうだけではない、貢献感覚を持てる社会を ──いぶきのグッド・ストーリー!④ 藤井美和 編 <後半>

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いぶきからのコメント

こんにちは、いぶき福祉会の和田です。協働責任者として、もっといぶきに対話と協働がうまれるよう、日々いろいろと取りくんでいます。
そこで、えんがわスケッチで、対談コラムをスタートしました。
ことの発端は2023年。社内で、「Good Story Award(グッド・ストーリー賞)」という取り組みをはじめました。みんなで現場のストーリーを集める試みです。いぶきの現場には、思わず笑顔になってしまうような素敵なストーリーがたくさんあるね。でも、忙しさに埋もれてしまってね、という、ある職員の発言をもとに生まれたものでした。
ただ、せっかく集まったストーリーを、社内だけに留めておくことはもったいない。ぜひ多くの方々に知っていただき、障害福祉の現場への理解が、もっと広まれば…、との願いから、えんがわスケッチでコラムを始めることになりました。
毎回、社内からゲストを招いてダイアログをします。いぶきの現場の今、仕事に取り組むスタッフたちの情熱やかっこよさ、いぶきらしさが、皆さんに伝わるといいな。そんな思いで、綴ります。
第4回目は、藤井美和さんと和田のダイアログ<後半>です

入所施設とグループホームの違いから見えてくる、”いぶき”ならではの特徴

和田: 藤井さん自身は、福祉をずっとやってきたなかで、いぶき以外の経験もおありですね。いぶきならではの支援の形を感じますか?

藤井: 私はいぶきに入る前は、障害像の重い人たちの大きな入所施設で10数年過ごしてきています。入所施設といえば悪のような言われ方をされることがありますが、私のいた場所はすごく楽しかったですし、とてもいい施設でした。

先ほどグループホームに入る理由について話がありましたが、いぶきの場合、親さんたちが、ぎりぎりまで手元で自分の子供を置いておきたいけれど、自分たちがいなくなった時に子供が困るからということで、グループホームに入れる方がほとんどなのですね。

和田: 以前の入所施設の場合はいかがでしたか?

藤井: 入所理由には色々なパターンがあって、中には虐待が理由で入ってきた方もいらっしゃいました。もちろん愛情いっぱいに育てられてきた方もいらっしゃいましたが、入所に至るまでの愛情のかけられ方に差がありました。

そういう点で、いぶきで働き始めたころ、いぶきの仲間たちを見た時に、みんな愛されて育ってきたんだろうなと感じました。人との関わり方、愛情のかけられ方や育ち方が、人間にすごく影響するのだなと、感じました。だから私たち職員がどんな支援をするかが、重要なことになってくると思うんです。

和田: 藤井さんは以前、入所施設に勤めていて、そこからいぶき福祉会の通所施設、そして今はグループホームで勤めておられるということですが、それぞれの違いをあまりご存じのない方に、少し説明していただけますか。

藤井: 分かりやすいところでは、人数が違います。グループホームだと5人から7人ぐらいがひとつの集団になって暮らしています。入所施設は、いろいろ形やタイプが今はありますが、私が勤めていた施設は、勤め始めたころは60床でしたが、それから100床になって、さらに100床以上に増えていきました。

和田: 大きいですね。

藤井: はい、その中でも棟に分かれていたりするのですが、それでも最小単位が18人ずつぐらいでした。個室があるところもありますが、多くは4人部屋や2人部屋などです。一方、それに対して、いぶきのグループホームは個室が基準です。

和田: 個室がある入所施設というのは少ないですよね。

藤井: 少ないと思います。それから、いぶきのグループホームのよいところとしては、やっぱりご飯ですね。ホームでもお弁当を取るところもあるかもしれないのですが、いぶきの場合は、スタッフが毎食ご飯を作っています。ですので、夕方に帰ってくると、今日のご飯は何かなと思わせるいい香りがしてくるんですよね。

和田: これはいぶきのグループホームのよさですね。

藤井: 入所施設ではどうかというと、給食室のようなところで一気にたくさん作ってもらい、お盆にのせてカートで配膳するイメージです。保温されているので温かい食事ではありますが、どうしても病院のような感じになります。

和田: いぶきのグループホームだと、食器もそれぞれが好きなものを使っていますしね。ずいぶんと違いがありますよね。

グループホームで夕食にした、福島からいただいたお豆腐

以前、福島にある「なごみ第二」からいただいたお豆腐を、グループホームのみんなで堪能しました

 

和田: グループホームにもいろいろあると思いますが、いぶき福祉会のホームには、何か特徴はありますか?

藤井: 1番の特徴は、いぶきのホームには重い障害の人たちが多く暮らしていることですね。ですので、身体介護はどうしても必要になってきます。自分でご飯が食べられない、トイレに行かれない方たちもいるし、一人で動けたり食べられたりする仲間もいるので、仲間によって介助の度合いが違いますね。

和田: 介助が必要な重度の障害のある方たちが入っているのは、グループホームとしては珍しいんですよね。

藤井: はい、だいたい身体介護の必要な方は入所施設に入られる方が多いので。お風呂の介助が必要だったり、そういう身体介護的な面は他のグループホームよりは多いです。

和田: 外の方と話した時に、グループホームと聞くと、介助なしの人が生活する場所と思っている方が多いと思います。

藤井: 入所施設だと、大人数が暮らしているので、お風呂も多くのスタッフで対応しなければいけないんですよね。なので、職員の動きとしては、体を洗う人、体をふく人、というように役割を分担して、時間内にたくさんの人数をお風呂に入れることになります。

その点、いぶきでは、一人ずつゆっくりお風呂に入ることができます。介助者とゆっくりおしゃべりしながら入ってもらったりしています。介助がある分、普通のお宅にあるお風呂よりは少し広いつくりのお風呂場なんですよ。同じお風呂の介助があるといっても、入所施設のお風呂とは雰囲気は全然違います。

和田: この30年の間に入所施設からグループホームへ、グループホームから一人暮らしへ、障害のある人の暮らしのあり方が変化してきました。そんな中で 入所施設はグループホームよりも制限がありましたか?

藤井: 一般の施設では365日利用者さんを受け入れていることもあり、職員が主体となって利用者さんの生活を作っていくことがしやすい環境でした。一方、いぶきのグループホームでは、まだ週末は自宅に帰省されている方も多く仲間のことだけでなく、親さんのこともよく考えているので、複雑性があがりますね。

和田: そうですね、いぶきでは、親さんの考えも聞きながら、仲間一人ひとりの希望を考えながら、支援をつくりますからね。

藤井: 仲間たちはとても大事に育てられてきていますので、親さんたちの思いもひとしおです。こういうふうに育ててきたので、ホームでもこういうふうにしてほしい、という思いがおありです。普通ならば、施設の都合もあるため親さんがおっしゃっていることは分かるがうちの施設ではできません、という紋切り型の対応をする所も多くあると思います。いぶきでは、私自身もたまにですが、親さんの希望と仲間自身の希望のあいだに入って、板挟みになることもあります。考えることは大変でもありますが、それでも声を聞きながら運営しているいぶきは、すごいなと思います。

重度の障害がある仲間たちが見せる姿に、「働く」ことの意義が見える

和田: 僕自身は、いぶきに来る前には、関東にある高齢者福祉の施設にいたんですよ。高齢者福祉の現場では、「働く」という視点は全くないんですよ、利用者はもう働くことから引退した人たちですから。それが、いぶきに参加して、障害のある70代の方とか、60代の方々が一緒に働いているわけです。僕はそれにすごくびっくりしたというか、ある意味、感激したんですよね。「働く」ということは、つまり、外とどうつながっていくかということそのものです。いぶきは、設立された頃から変わらず、地域とのつながりをすごく大事にしているので、障害のある高齢になった方々が働く姿を見て、おお、働けるんだ!と思いました。

藤井: 以前勤めていた施設で、よく考えていたことがあるんです。それは、「重度の障害を持った人たちが仕事をしなければいけないのか?」について。仕事の意味をよく職員間で問いました。重度の障害を持つ人たちは仕事をしていないことのほうが全国的には多いと思います。では、彼らがなぜ仕事をする必要があるのかと、問われたことがありました。“お手伝い”と“仕事”とは違うが、お手伝いではダメなのかとか、以前の職場でさんざん考えていて、私なりの答えを求めつつ、いぶきに来たんです。

和田: 答えは見つかりましたか?

藤井: いぶきには、寝たきりの人たちもいらっしゃって、呼吸するのも大変な人たちがいます。しかし、いぶきでは働くことが当たり前だったんですよね。職員たちに聞くと、給料のために働くのではないかという人もいますが、仲間はお金の価値が分かりません。みんな自分で買い物ができるわけじゃないのに、では、どうして働くのか? 

これは、仕事をすると、みんな顔が変わるんですよ。仕事だから頑張らなきゃいけなかったり、仕事なので制限されたりすることもあって。これはお客さんに渡すものだから、ここまでやらないとダメだ、ということがあると、みんな頑張るんですよね。つくった商品を破棄せざるをえないこともあるのですが、そういうことを乗り越えていく姿や、できたときの姿。結局、人間って、誰しもがやっぱり成長したいという願望を持っているんじゃないかなって思うんです。仲間たちを見ていると、すごくそれを感じます。その機会である仕事って本当にすごいなって、思うんです。

和田: 仕事があるから、重度の障害のある方々が、社会や人との接点を持つことができますよね。寝たきりのまま何もせず1日過ごすのではない機会をつくることは、意義がありますよね。

藤井: 本当にそう思います。お給料が微々たるものだろうとなんだろうと、みんな給料を持って帰って、それが自信になっているのだそうです。仲間が親さんたちに奢ってあげたりしている話も聞くんですよ。先日も仲間のIさんが、ボーナスでうなぎをご両親にごちそうしたという話があって、それで、ボーナスが全部なくなりましたって、親さんがおっしゃっていたり(笑)

和田: あはは、それは嬉しい出来事ですね。

藤井: ほかにも、Mさんは給料を貯めて、毎年、家族旅行をプレゼントしているそうなんです。先日も、結構いい旅館に泊まっていましたね。それをまた嬉しそうに、胸を張って聞かせてくれるんです。言葉では話ができないのですが、親さんがノートに書いてくれた旅行の様子を読み上げると、目をキラキラさせて、うんうんとうなずいているんですよね。

和田: やはり仕事って大事ですね。

藤井: 大事!

和田: 人と関わりながら、我慢することもありながら、仕事の厳しさもありながら頑張って、最終的には親さんにも感謝が示せていますね。

藤井: だから、私はやっぱり「仕事」については、厳しいかもしれませんが、楽しければいいものでもない、頑張る場面があってもいいと思っているんですよ。自分もそうですが、仕事って結局、楽しいばかりではなくて、苦しい部分もあるんですが、振り返ってみたら自分も成長したなと思えるものなのかと。もちろん、毎日のことなので、厳しさばかりはダメだと思いますよ。

和田: 仕事という点においては、仲間も僕たちも変わりませんね。大変な時もあるし、でも喜びもあるし。できたという達成感もある。そういう場になっているいぶきであることが、すごく嬉しいですね。

藤井: そうですね。自分自身の仕事も辛いばかりではなく、楽しむようにしたいですね。そうして気が付いたら、私自身もここに十何年いるように、ほかの職員もそういうふうに思えるような職場になるよう、私たちは考えないといけないなと思っています。仲間たちも、時にやっぱり仕事をしたくないってなることがあるんです。仕事なんだからやらないとダメだよというだけじゃなくて、じゃあ、もっとやりがいのある仕事をどうしたらつくれるのかを考えていくことが、職員の仕事だと思っています。
グループホームで仲間と一緒の藤井美和さん

いぶき福祉会と社会の未来像:“お互いさま”が境界を越えて実現すること

和田: 藤井さんが、その先に考えているいぶき福祉会の未来像はありますか?

藤井: いろいろな施設を見学に行く機会があったり、世の中のいろいろな悲しい話を聞いたりしていると、ここだけ、いぶきだけが、幸せでいればいいとはやはり思わないんですね。

和田: なるほどね。

藤井: いろいろな外部とも繋がっているのがいぶきのよさだと言いつつも、仲間が活動する拠点はやはりいぶきの中にあって、外とはちらっと繋がるだけとも言えます。そうではなくて、仲間たちも何かに貢献できている感覚を持てるような社会になっていくといいと思っています。助けてももらうけども、貢献もできているという、フェアな関係に、もっと世の中がなっていくといいなと。そのために、私たちがもっとできることがあるんじゃないかなと思っています。

和田: 支援をしてもらう、支援されるという二分法的な関係ではなく、ですね。

藤井: そうなんです。「多様性」とは言ってはいますが、自分たちの安全基地の中だけにいるのではなく、もっと内と外との境界がなくなっているような形があるんじゃないかな。そうなると、「施設」という呼ばれ方じゃないものになると思います。

和田: それは、いぶき福祉会の未来像であるだけではなくて、見据えるのは社会の未来ですね。いぶきも含んだ社会の未来を、どうつくっていくかという事に関係しますね。

藤井: いぶきの良さとか、いぶきだからこそ、というだけに終わらず、それが、どこに行ってもある状態。いぶきができるのだから、他でもできると思うんです。もちろん、いぶき以外のところで、いいものを持っていらっしゃるところもたくさんあるので、私たちも他者から学ぶ姿勢を持たなきゃいけない。それが福祉関係同士に閉じていなくてもいいと思うので。

和田: いぶきは、地域や周辺にいらっしゃる方々とのつながりを大切にしていますからね。関係づくりのその先に、藤井さんが描く未来があるように思いました。今回はありがとうございました。

いぶきのグッド・ストーリー! 
竹腰龍太 編  前半:仲間を大事に、自ら考え、柔軟に支援できる現場をつくる
②竹腰龍太 編  後半:多様性が許容され、障害福祉の理解がもっと拡がる社会をつくる
藤井美和 編  前半:障害の重い仲間の「暮らし」を支える楽しさと大切さ
④藤井美和 編  後半:助けてもらうだけではない、貢献感覚を持てる社会を(現在の記事)

いぶき福祉会の藤井美和さんと和田善行さん

この記事を書いた人

いぶき福祉会 和田善行

和田善行

わだ よしゆき
社会福祉法人いぶき福祉会 法人本部 事務長
協働責任者/社会福祉士/インターミディエイター

大学時代には、筑波大学で数学を専攻すると同時に、ボランティア・サークルを新設。障害のある方々の生活課題にまなざしを向けて、プロアクティブに活動していました。卒業後も活動を継続しながら、神奈川県丹沢主脈の山頂にある山小屋にて小屋番を経験。その後、高齢福祉の分野を経て、再び障害福祉に立ち戻るため、岐阜に移住し、社会福祉法人いぶき福祉会に所属。現在、協働責任者として、団体内外との協働を促進し、クリエイティブ・ワークチームの形成に取り組んでいます。さらに、人間回復と再生につとめながら、“競争のない、多様性が許容される社会”の実現を目指しています。

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とりちゃん やま